『happening』




「あっちぃ。」


体育館から出て来た彼は雲ひとつない空を仰いで汗を拭う


「お疲れ様。」


そう言ってわたしが差し出したタオルと水筒を受け取ると階段に腰掛け一気に麦茶を飲み干した


「サンキュー。」


「大変だね、サッカーにバスケにバレーボール。次はなあに?」


今日は朝から校内でクラスマッチが行われていて


持ち前の運動神経と体力を買われてほぼすべての競技にエントリーされている彼は休む暇もなく試合に出続けている


「だいたい男がほとんどいねぇのに何でこんなに競技があるんだよ。いくら俺でももう限界だ。」


「でも大活躍だよね、さっきのバスケもひとりでシュート決めてたし。」


「この学校の男子が運動神経無さすぎなんだよ。」


わたしと彼はクラスが違うにもかかわらず、女の子達のものすごい歓声で彼がどこにいるのか一目瞭然になってしまうほどの状況に何だかこっちまで誇らしくなる


「おまえは何に出るんだよ?」


「えっとね、テニス。でも一回戦の相手がテニス部の部長さんだから勝ち目は無いの。」


そもそもテニスなんて授業でちょっとだけかじった程度でまともにサーブも打てやしない


「怪我だけはするなよ。」


そう彼に言われていたにもかかわらず、おっちょこちょいなわたしは相手の強烈なスマッシュをラケットではなく胸で受けてしまいあまりの痛みに気絶してしまった


「おいっ、大丈夫か?」


目を覚ますと体育館の裏の木陰で彼の腕に抱かれた格好で座っていた


「うん、大丈夫…」


そう言って体を起こそうとしたら胸に激痛が走った


「いっ…たぁ。」


「なんで胸でボール受けるんだよ?」


「だって」


相手の子はずっと手加減してくれてたのに、最後の最後に強いボールが来てびっくりして固まってしまった…と彼に説明することも出来ないくらいに胸がズキズキと痛む


「どうする?治してやりてぇけど。」


そっか、痛むのはよりによって胸だもん


彼に見せたり、触れられたりするなんて考えただけで頭に血が上りそう


「だ、大丈夫。保健室で湿布でも貼ってもらうから。」


彼はしばらく黙ってわたしの様子を見ていたけれど、意を決したように辺りを見回し誰もいない事を確認すると


「見ねぇから、少しの間だけ我慢しろ。」


そう言うとわたしの姿を隠すように正面から胸に抱き右手を体操服の裾から滑りこませた。


「えっ!!ちょっ…」


「動くな。じっとしてろ。」


彼の大きな手の平がわたしの胸の膨らみの、ちょうどボールが当たった辺りに強く押し当てられた


「いっ…」


痛みと恥ずかしさで再び気を失いそうになっていると彼の熱い吐息を耳元に感じた


「ったく、何の拷問だよ。」


彼の魔力の効果は絶大であっという間に痛みは引いていったけど彼の手はわたしの胸元に置かれたままで


「あの、ありがとう。もう大丈夫だから…」


そう言って体を離そうとしたわたしをさらにきつく抱きしめて彼は深い口づけをした


やがて昼休みの時間を告げるチャイムが鳴り始め、ようやく彼はわたしを解放した


照れくさそうに「腹減ったな、飯にするか」とつぶやき立ち上がるとわたしの手を取り起こしてくれる


震えているのが伝わっのか、バツが悪そうな顔で「悪かった」と言い背中を向けた彼にわたしは後ろからそっと抱きついた


「ううん、治してくれてありがとう。」


きっと


お昼ご飯は喉を通らない





fin