『medicine』





日曜日の試合後は彼に声が掛けられなかった



最終的に判定で勝つには勝ったのだけれど、後半はかなり攻め込まれて防戦一方の場面が何度かあって



「お疲れ様…」



傷だらけの彼の背中に小さな声でそう言うのが精一杯で。



少し減量のし過ぎだったのかな



試合後にあんなに消耗している姿を見るのは久しぶりだったからわたしも少し動揺してしまって



家に帰ってからめちゃくちゃ後悔した


 

勝利した事に代わりはないんだからちゃんと『おめでとう』って言えば良かった



だめだなぁ



命懸けで頑張ってる彼に何もしてあげられない自分がもどかしい



結局、眠れないまま朝を迎えて



月曜日の朝、学校に着くと部室の方に歩いて行く彼の姿を見つけ後を付いていく



少し勇気を出して肩を叩いて「おはよう」と言うと彼がまだ腫れの残る痛々しい顔で振り向いた



「よお。」



「昨日の用具の片付けでしょう?わたしも手伝うね。」



「…サンキュ。」



「傷は大丈夫?痛むでしょう?」



彼はわたしの傷は治してくれるけれど自分がボクシングで負った傷は決して魔力では治さない



不自然だし、フェアじゃないからって言っていた



「ああ、痛いのは痛いけど大したことねぇよ。」



「絆創膏取り替えるからちょっと座って。」



部室の隅に置かれたベンチに彼を座らせ傷を消毒して絆創膏を貼るとようやくわたしの気持ちも落ち着いてきた



「昨日はごめんね、おめでとうって言うの忘れちゃった。」



ちゃんと笑顔で言ったつもりだったけど彼は黙ってこっちを見つめている



どうしよう、何か変だった?



「おまえさ…」



「な、なあに?」



「いや、なんでもない。」



そう言うと彼は優しくわたしの腕を掴んで立ち上がりその胸にしっかり抱きしめた



「おまえはほんとに万能薬だよ。」



照れくさそうに重ねられた唇は消毒薬の味がした





fin