人にはそれぞれの生い立ちがある
それは私に向けた言葉ではないけれど
すごく真っ直ぐに心に入り、私の世界を一片させた。
世界の色が変わった日 ~翡翠さん誕生日小説
「どうしたんだ、玲?」
「ううん・・・何でもないよ。幸鷹兄様」
新しい土地は、海賊が横行しているという。
それを正す為にと、兄様がこの伊予国へ国守として新任されると
同時に私も一緒に同行したのだ。
「兄様・・・少し出かけてもいい?」
「ここは、京とは違うんだ・・出かけるのなら共を・・って玲!」
「ふふ・・・大丈夫よ。兄様」
幸鷹兄様の言葉を振り切り、私は伊予の街へ
出かける為に、身に付けていた重たい着物を脱ぎ捨て
駆け出す。
「兄様には、申し訳ないけれど共を連れて歩いていたら
貴族だってバレちゃうじゃないの」
目の前の石を蹴飛ばし街中を散策し始める。
子供たちの笑い声と、露店の人達の声が街を賑やかにしているけれど
(・・・・覇気が・・・ない・・)
皆、何処かビクビクしているようで
何かを警戒しているように思えた。
「おい、そこの娘」
いきなり腕を掴まれ、強引に引き寄せられ視線を向けると
ニヤニヤと笑みを浮かべなら私を見ている男。
「・・・・・なんですか?」
「ほう?私を知らないと言うのか・・」
身なりをみれば、それなりの身分の人だろう。
「知る必要などないわ」
「くくっ・・・面白い娘だ・・」
「褒められても嬉しくないの。汚い手をどけて」
「なっなに!」
カッとなり声を上げる男の隙を付いて。
これでもかと云わんばかりに足を踏みつけ
手が離れた瞬間に、男の脇差しを奪い、喉元へ刀の切っ先を当てた。
「ひぃ!」
「だらしない・・これが伊予の国を護る人の声?」
何とも情けない姿。
この人達の為に、兄様がここへ来たのかと考えると腹が立つ。
「面白い娘だ」
低くて、それでいて澄んだ声。
振り返ると凛とした立ち姿、それでいて品がある物腰。
どこかの貴族の人かと思う程の美しい顔立ちの男が
隣に女性を連れて私へ声をかけてきた。
「・・・往来で失礼しまいた」
「いや、気にしてはいないよ。ただ・・珍しいと思ってね」
「そうですか?」
「・・・翡翠・・」
私との会話が、あまり面白くないのか
隣に居る女性が男の名を呼ぶが、視線を流すように女性を見て
再び口を開く。
「君は、この国の者ではないね」
「・・・ええ、玲と言います」
「ふふ・・・」
「おかしな事を言いました?」
「いや・・・私を素性を知らないのに、名前を名乗るとは」
「ああ・・・兄様によく言われますね
でも良いんですよ。名前くらい」
「ほう?何故・・・と聞いても」
「あなた、悪い人じゃないでしょう?」
私の返答に、男は一瞬目を開き沈黙したが
やがて大きな声を上げて笑い始めた。
これが、私と翡翠との最初の出逢いだった
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あとがき
3話で完結したいと思ってます。
誕生日小説で続きものは、初ですね・・・
ヒロインの名前はピグ友の『玲』さんからお借りしてます。