人それぞれ・・なんだけどね・・
「・・・・・今日も遅いんですか?」
「ん?」
望美の問いかけに、咲弥は小首を傾げる。
誰の事を訊ねているのはわかるが
こう何度も尋ねられると困ってしまう。
「今日も遅いですよ。弁慶は」
「・・・・・毎日?」
「う~ん・・最近はそうね・・」
私も寝ちゃってしまうから、正確な時間はわからない。
と応える咲弥に望美は唇を尖らせた。
「・・・・何だか・・倦怠期の夫婦みたい」
「あらあら・・」
用意したお茶とお菓子を差し出すと
膨らんでいた頬が緩み、笑顔で食べる望美に
微笑みながら、自分用のお菓子に手を伸ばす。
「弁慶さんと何かありました?」
「どうしてそうなるのかしら?」
「だって・・」
望美はお菓子を口に入れ、モゴモゴと話しているが
何を言っているのかわからない。
「望美ちゃん・・わかるように話してね」
「ん・・・っと、弁慶さんって結構、独占欲も強そうだし・・
それでいて女性には優しいし・・黒いし・・」
「・・・・・・褒めているのか、貶しているのか、わからないわね」
望美の言葉にますます首をかしげ
お茶を流し込むと、ゆっくりと立ち上がった。
「雨が降ってきたわ・・今日はここで泊まってね」
「大丈夫ですよ。将臣くんがお迎えに来てくれるので」
「あら・・優しいわね」
ニコニコと返事を返し、降り始めた雨が家の中へ入らないように
窓を閉める咲弥の後ろ姿をぼんやりと眺める。
「咲弥さん」
「なぁに?」
「・・・・・・・本当に寂しくない?」
先程とは違う声のトーンで質問してきた望美へ
視線を向けると眉を八の字にしこちらを見ている姿が写る。
「・・・寂しくないと言えば嘘になるけどね」
「だったら」
「お互い、仕事をしているのよ。疎かに出来ないでしょう?」
「そう・・・ですけど・・」
「ふふ・・・大丈夫よ」
「だから・・その根拠は・・」
望美が言葉を繋げようとした瞬間
咲弥の顔が不意に外へと向けられる。
窓が閉まっているし、雨の音しか聞こえないのに
何かを感じた様子の咲弥に、今度は望美が首を傾げた。
「あの・・・」
「お帰りなさい・・弁慶」
「ただいま戻りました。咲弥さん」
望美が口を開くと同時に、玄関へ足を向け
咲弥が言葉を紡いだ瞬間、聞こえた声。
微笑みを浮かべ、壊れ物を扱うかの様に優しく抱きしめ
頬を寄せ合い見つめ合う二人の姿に
びっくりしたと同時に顔が赤くなる。
「今日は遅いと思ったのに」
「おや?僕が早いと都合が悪い?」
「そんな事無いわ。意地悪ね」
「ふふ・・・・君に逢いたいから早く帰ってきました」
「ありがとう・・お疲れ様」
「ええ・・ありがとう」
額をくっつけ唇が触れそうな程、至近距離で話す二人の姿。
視線をどこに合わせたらいいのか悩んでしまう。
「望美、待たせたな」
「将臣くん」
ひょっこりと顔を覗かせた将臣の姿に
安堵の顔を浮かべ、思わず抱きつく。
「お、おい。望美?」
「おや?大胆ですね、望美さんは」
「ふふ・・いいじゃないの。好きな人には抱きつきたいわ」
「なるほど・・そうですね」
望美の姿を見ながら、のほほんと話す二人を他所に
将臣は腕の中で顔を真っ赤にしている望美を不思議に思いながら
声をかけるが返事がない。
「望美?大丈夫か?帰るぞ」
「う・・・うん」
「気を付けてね、望美ちゃん、将臣」
「おう、ありがとうな」
「気を付けてください」
「サンキュー」
二人に見送りの言葉をかけられ
腕の中から出て、そっと二人を盗み見ると
頬にキスを落とす咲弥にお返しとばかりにキスを落とす弁慶の姿。
「将臣くん・・・・・」
「望美?」
「倦怠期ってあの二人にはないんだ」
「は?」
心配して損した・・
そう呟く望美に、将臣は首を傾げた。
あとがき
オチがない・・・