そろそろ、きちんと伝えないと―――――
「おう・・・咲弥・・」
片手をあげて名を呼ばれ、振り返れば
将臣がいつもと変わらない表情でこちらへくるのが分かった。
「私に声をかける・・と言うことは、将臣・・」
「俺は何もしてない」
「・・・・・私は何も言ってないわ」
「・・・・・・」
それはそうだ。
けれど、彼女の言葉は確信を知っているような口ぶりだ。
「・・・・・心は伝えないとね」
「はいはい・・・」
「あまり教えないままでいると、誰かに取られちゃうわよ」
綺麗だからね、彼女・・と含みのある言い回しをし
去っていく姿は某軍師の姿に被る。
「ったく・・」
バレンタインから始まる瞬間
将臣×望美
「あの・・・・」
「はい?」
振り返ると、年下だろうか。
一人の男子生徒が真っ赤な顔をしながら声をかけた。
「あの・・・・」
言いよどむ姿に、望美は立ち止まって
言葉を待っているが、男子生徒は中々話さない。
そんな彼を他所に、望美はちらりと腕時計へ視線を落とす。
そろそろ約束の時間なのだ。
用件がなければ、立ち去りたい。
それが本音なのだが、その言葉をどう繋ごうか思案しても
良い案が浮かばず、困惑した。
「・・・あの・・・急いでいるので・・・」
待っていても埒があかない。
口を開いて、その場を立ち去ろうと一歩踏み出した瞬間
男子生徒が望美の腕をつかんだ。
「・・・えっと・・・」
予想外の事に、どう言ったらいいのか分からず
困惑の色を浮かべる。
「好きです!春日先輩!」
大声で言ったと思ったら、力強く抱き寄せられる。
「ちょっ!」
この展開は、さすがに困る。
抵抗を試みるが、女性の望美の力が男性の力に及ぶはずもなく・・
「俺・・・春日先輩の事ずっと見ていて」
「あの・・・ちょっと・・離し・・・」
「俺の想いを受け取って下さい!」
言葉と同時に近づく男子生徒の顔。
鈍い望美でも、彼が何をしようとしているのかわかる。
顔を背けても、彼が顔を強引に自分の場所へ向かせ
ドンドン近づいてくる。
(いやっ!)
「ストップ」
言葉と同時に、別の手が望美を引き寄せたのがわかる。
そしてその声が誰なのかも。
「ま・・将臣く・・」
「まったく・・・何をしているのかと思えば・・」
「あ・・・有川・・・先輩・・・」
「お前・・好きな女に無理やり迫るのはどうかと思うが?」
言い方はいつもと変わらない。
けれど、男子生徒に向ける視線は鋭い。
「せ、先輩には・・か・・関係ないじゃないですか」
「は?」
一瞬、怯んだが反撃の言葉を返した瞬間。
将臣の身に纏う空気が変化する。
「・・・な・・・なんですか・・・・」
「この際、言っとく」
今まで聞いたことの無い低い声。
それは、異世界に飛ばされ戻ってきた彼が見せた
還内府として身に付けた空気。
「望美に手を出す事は赦さない・・こいつは俺のだ」
その言葉は、いつの間にかこの様子を見ている
生徒たちにも向かって発していて
女性の生徒達からは悲鳴が
男性の生徒達からは落胆のため息が聞こえる。
「な・・なっ・・・・」
「いいか・・・これ以上、こいつに近づくな」
口をパクパクしながら真っ赤な顔の望美を
連れて将臣は呆然としている男子生徒を残して
学校を後にした。
「ったく・・・お前は隙だらけなんだよ」
「ちょ・・ちょっと将臣くん・・・さっきの・・言葉・・」
未だ混乱なのか、望美は上手く言葉が繋げない。
「あのな」
「え・・・・将臣・・く・・」
髪をかきあげ、望美と向き合ったと思った瞬間
右腕を掴まれ、グイッと引き寄せられ
そのまま身体が将臣の身体に自分の身体がぶつかる。
「将・・・」
「ちょっと黙れ・・」
「へ・・・・あの・・・んっ・・・」
顔を上げて、名を呼ぼうとしたが
気が付けば目の前に将臣の顔。
そして唇に感じるぬくもり・・・
「・・・まままままま将臣くん・・・」
触れた唇が離れ、顔を真っ赤にしたまま
上手に話す事が出来ない望美に
いつもとは違う真剣な眼差しを向けて
見つめている将臣の姿に、身動きが取れない。
「・・・・俺、お前が好きだ」
「将臣・・くん・・・」
「他の男に渡すつもりはないぜ」
「・・・・」
「お前は?」
いきなりの告白に、どうしたらいいのかわからない。
「望美?」
「あ・・あの・・・将臣くん・・・わ、私・・・」
ジリリり・・・・・・
「んっ・・・・・」
聞こえた音に覚醒する。
目を開くとそこは見慣れた自分の部屋の天井が写る。
「・・・なんだ・・・夢かぁ・・・・」
そう、夢の筈だ。
あの将臣が自分に『好きだ』と告白し
キスを落とすなんて・・・
「~~~~ッ」
思い出すだけでも恥ずかしい・・・
ベットの中で望美は顔を赤くしながら
勢いよく布団を頭から被る。
「なに、してんだよ?」
「へ?」
布団をいきなり剥がされ聞こえた声は
間違いなければ将臣の声。
おそるおそる顔をあげると、ちょっと呆れたような
だけど優しい笑みを浮かべている彼の姿に
夢の出来事を思い出し、熟れたトマトの様に顔を再び赤くさせる。
「な~に、赤くなっているんだよ」
「ななななななな・・・・」
「お~い、ちゃんとしゃべれ」
「なんで、ここにいるのよ!」
「は?今日はお前とデートだろ?」
「え?」
「は?」
きょとんとした顔で将臣を見ると
彼も驚いた顔で望美を見ている。
「おまえ・・・まさかと思うが・・昨日の事、夢だって思っているだろう?」
「昨日・・・・って・・」
「ったく、俺がお前に言った言葉だよ」
「え?あれ・・・・って・・」
夢じゃない・・と呟いた望美に
将臣は、ニヤリと笑い、未だに混乱している望美にキスを落とした。
「俺たちの始まりはバレタインからだな」
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あとがき
将臣くん、バレンタインお話完了です。
う~ん、口調が若干変なのはお許しくださいね。