たとえば、人が人と出逢う事に理由はありますか?
この人を好きになってはいけないと思いながらも
止められない感情はどうしたらいい。
「咲弥先生」
「あれ?葦原くん、どうしたの?」
「あのさ、僕も千尋も同じ『葦原』だから名前で呼んでって
毎回言っているけど」
「そうだった、はは・・。忘れてた」
そう言ってニコニコ笑う咲弥に、那岐はなんとも言えず
小さくため息を吐くと、一番奥のベッドにゴロンと横になる。
「・・・・・あらら。大変だ」
「そう思うなら、協力して」
笑う咲弥を横目に、布団を被ると咲弥をぎろりと睨む。
「はいはい、じゃあカーテン引くから。少し寝たら?」
「そうする。千尋にも風早にも内緒にして」
カーテンを引かれ、周りから隔離された感覚。
那岐はぼんやりと天井を見上げた。
時折風が部屋に入り込んで、カーテンの隙間から見える
咲弥を見つめる。
部屋に流れているのは、聞いた事のない柔らかな音楽と
咲弥が走らせるペンの音だけ。
心地よい感覚に囚われながら、那岐は目を閉じた。