従者として恋人として
(布都彦×千尋)
「ああ、すまない」
「いいえ、布都彦様もよければ」
その日、千尋は侍女と楽しそうに会話をしている布都彦を見かけた。
いつも自分と居るときとは違う。
「あら?千尋ちゃん。可愛い顔が台無し」
「夕霧」
膨れている頬に触れながら夕霧はニコニコと千尋をみて
離れた場所の布都彦へ視線を注いだ。
「あれ、まあ・・・千尋ちゃんったら、可愛いお人やね」
「だって・・・」
想いは確かめ合ったはず。
それなのに、布都彦は未だに自分の事を『姫』と呼ぶのだ。
わかっている。
自分はこの中つ国を収める女王で。
だけど・・・
「姫、いかがなさいましたか?」
「・・・・・・・・・」
いつの間にか自分の所へ来ていた布都彦が
心配そうに声をかけた。
「ねえ、布都彦」
「はい」
「私を名前で呼んで?」
千尋の突然の言葉に、布都彦は目を丸くして千尋を凝視した。
「何をおっしゃっているのですか?姫は姫です」
「そうじゃなくて」
「姫は『中つ国』を治められるお方。私のような・・」
そんな従者の言葉など聴きたくない。
私は、『姫』の前に彼の恋人なのに・・・・。
だんだん苛立ちが募って・・・・・
「姫・・・」
「どうしてわかってくれないの!」
「姫っ!!お待ちください!姫!」
瞳に涙を浮かべて去っていく千尋を呼んでも答える事無く
千尋はその場から居なくなった。
「姫さん、泣いていたな」
「あ、ああ・・・」
突然のことで呆然としている布都彦に、サザキも困惑しながら
千尋の姿を見送る。
「ほんまに、布都彦さんは罪なお方やね」
「夕霧」
「那岐!!」
「・・・・・・・・今度はなに?」
いきなり部屋に入ってきた幼馴染をうんざりした顔で
見ると、はぁ・・とため息を吐く。
「なんでそんな顔するのよ」
「これは生まれつき」
那岐の容赦ない言葉にうっ・・と言葉に詰まった。
「ひどいんだもの」
「はいはい」
唇を尖らせた千尋を見ながら那岐は宙へ視線を向けた。
(まったく・・・・面倒くさい)
************
その頃、布都彦は千尋を探して場内を探していた。
探しながら思うのは夕霧から訊いた言葉
「千尋ちゃんは、あんたに他の人とは特別に言ってほしいのよ
『姫』だなんて、恋人で言うのはあんたくらいよ」
それはわかっている、だけど・・。
公の場では彼女を『名前』で呼ぶことは出来ない。
それに――――
(名前を呼んでしまったら)
堰を切ったように重いが溢れてしまいそうで怖い。
己の手をじっと見つめている布都彦の耳に微かに誰かの声が聞え
顔を上げるときょろりと辺りを見渡す
「気のせ――」
「あ・・・っ」
聞えてきた声に、布都彦は耳を疑う。
漏れてきた声は、間違いなく自分が今探している人物で・・・。
その声は、那岐の部屋から聞こえてきたのだ。
「那岐・・・そこは・・・」
「我慢しなよ・・・千尋が言ったんだろう?」
甘い漏れる声
そしてソレすら楽しんでいるかのような那岐の声。
「そう・・・だけど・・・」
「ほら、力抜いて」
「あ・・・」
「姫!那岐!」
いきなり扉が開かれ、びっくりしている二人と
その様子が想像していたときはまったく違う様子に
布都彦は戸惑いながら訊ねる。
「ふ、二人で何を・・」
「何って・・・ただのマッサージだけど?」
怪訝そうな顔を見せた那岐の顔。
「いや・・・あの・・・」
いらぬ誤解をしていたらしい布都彦は、頬をかきしどろもどろな声で
視線を千尋へ向けると、突然あわられた布都彦に言葉を掛けれず俯いている。
二人の様子に、すぐに状況を理解したのか那岐は椅子から立ち上がる。
「まったく・・・」
「な、那岐・・どこ行くの?」
「・・・・・・・・・・・・頼むから痴話喧嘩なら他所でやってよね」
面倒だから、と那岐は盛大なため息をついて俺と姫を置いて部屋から出て行く。
残った私と姫の間に漂うのは、気まずい空気。
「あ・・あの・・・姫」
布都彦の声に、ビクンと身体を動かすが決して布都彦の方へ視線は向けてくれない。
それがすごく悲しくて苦しくて。
「姫・・・お願いですから。私にお顔をお見せください」
思わずだった。
無意識に姫を抱きしめる。
「・・・・千尋って・・」
「しかし・・・」
「我侭だってわかってるの・・・・でも、二人きりの時だけでいいから千尋って呼んで」
涙を浮かべながら、上目遣いで告げる千尋の表情に
カッと顔が赤くなり、鼓動が早くなる。
「ひ、姫・・・」
「やだ・・・・千尋って呼んで」
ぎゅっと己の服を掴む仕草すら愛おしい。
「・・・・ん・・・・」
触れる唇の温かさと漏れる吐息に
頭がクラクラしてしまいそうになる。
兄上もそうだったのだろうか?
一の姫をこんな風に愛おしく離し難い存在だったのだろうか?
「ふ・・布・・・都彦・・・」
「千尋・・・」
「もっと呼んで・・・・」
「何度でも・・・千尋・・・」
そっと唇を離し名前で呼べば、少し恥ずかしそうに
それでも嬉しそうに頬を赤らめながら布都彦を見つめる千尋に
もう一度口付けを落とした。
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あとがき
危ない危ない←なにが?
もう少しで私の書いている布都彦くんが暴走しそうな勢いでした。
初のお話で暴走したら拙いでしょう?
え・・と、コホン。
改めまして、こちらは逢*鬼羅さんの夢小説サイト『10000hit』記念小説です。
サイトを運営するのは本当に大変だと思います。
これからも素敵なお話を作ってくださいね。
お持ち帰りは、逢*鬼羅さんのみ可能です・・・。
このお話、果たしてリクエストに答えられているのだろうか?(((゜д゜;)))