「さあ、美しい声で鳴いて・・・・その後は・・・八葉の首でも並べましょうか?」
「くっ・・・」
傷を抑え、彰子を睨みつける八葉。
その姿すら楽しいのか、彰子は笑みを崩すことはない。
「弁慶殿・・・あなたは私を怒らせるのがお上手でしょ?」
弁慶の顔を足で自分の方へ上げさせると
笑顔で肩の傷に再び刀を突き刺した。
「あなた・・・・・どの時代でもイライラさせる存在だわ」
「そう・・・・ですか・・・・光栄ですね・・・・」
ズキズキと肩の痛みがひどくなる。
肩に熱が帯びて意識が遠のく。
「彰子さん、やめて!」
望美の声を聞きながら、彰子は片手を望美に向けると
辺りは一面、怨霊の巣窟と化した。
「神子は心配しないで、あなたは最後に殺してあげる」
「そんな・・・怨霊が・・」
「ねえ?弁慶殿、私ならあなたの願い聞き届けられるわよ」
「・・・・・・・・」
痛みで顔を歪めている弁慶に耳元で囁き笑顔を向ける。
「どうかしら?」
「・・・・・・素敵な・・・申し出・・・・ですが・・・僕は遠慮しますよ」
彰子に視線を合わせながら、弁慶はいつもと同じように
笑顔をみせきっぱりと告げる。
「あなたの・・・傍にいるなんて・・・・・ごめんですね・・・・」
見る見る彰子の顔が歪んでいく。
「そう・・・・・・残念だわ・・・・なら、他の八葉と一緒に消えなさい」
「弁慶!」
「弁慶さん!」
大量の怨霊が発生しているため、弁慶の場所へたどり着くことが出来ない。
九郎や望美が弁慶の名を呼んだ瞬間、
今までいた怨霊が払拭された。
「怨霊・・・が」
「消えた」
弁慶と彰子の前に立つ人。
「ふ・・・・やっとご到着か」
「遅いんだよ」
息を切らしながら、現れた人物に将臣と知盛は笑いながら声をかけ
望美たちは、ふわりと現れた人物に魅入りる。
「そんな・・・・馬鹿な・・・・」
彰子は信じられない様子で望美たちの前に立った人物を見つめている。
「・・・・無事なのね」
「ああ・・・悪いな、やられちまった」
「仕方ないわ。私も遅れたから」
「まさか・・・そんなっ!・・・」
「開いてみなさい、それは貴女が私を殺すために送った者よ」
外套から現れた首だけの人物、それは彰子が平家に送り込んでいた
密偵の変わり果てた姿。
「おのれ・・・・殺してやる・・・・」
首を叩きつけ平家の軍師を睨みつける
「殺してやる?容赦しないのは私の方よ」
騒がしい空間が、その一言で一瞬で静まり返った。
それは、姫軍師の周りの空気が冷えた空間を作り上げたから。
背後に立っている望美や八葉は彼女の隠さず見せる殺気に息を呑む。
「・・・・大事なの・・・?」
「・・・・・・・・」
「ソレほどまでに、こんな男が大事だって言うの!!!」
弁慶を指差し忌々しく吐き捨てる言葉。
誰もが理解できない。
弁慶が大事とはどういうことだ?
それは、名指しされた弁慶も思考が働かず、姫軍師の背を見上げた。
「・・・・・・彼だけではない・・・私にとって、この人たちは大切な人よ」
「え・・・・」
「この声」
間近で訊いた声。
そして、一瞬見せた空気に誰もがある人物を思い浮かべる。
――― 次の瞬間
海の風で真紅の外套が靡いて、深く被っていたそれが払われた。
「う・・・・・そ・・・・・」
望美の呟きは、この場に居た全ての人間が思った言葉。
ただ一人、将臣を除いては。
「八葉と、神子をこれ以上あなた方の好きにはさせないわ」
「咲弥・・・・さん・・・・が・・・・平家・・・・」