欲望の果ては | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

全てを壊してしまえばいい――――


         愛する人に触れた罰は重いのだから――――





「・・・・・・ありがとうございます。本当に助かりました」


「いえ・・・」


女の微笑みに男は、少し頬を染めて返事を返した。

道に迷ったといって自分の前に現れた女。

身なりが変わっていたが、それでも美しい女には変わりなく。


人を探していると告げた女に、その間ここに滞在するようにと

男が告げた瞬間笑みを返した女に心を奪われたのだ。


何気なく髪をかきあげた瞬間に見えた白いうなじ。

ふっくらとした赤い唇。

黒曜石の瞳。


ごくりと思わず唾を飲み込んだ。


「どうされました?」


「い、いや・・・、疲れただろう?今日は遅い・・・ふ、風呂にでも」


首を傾げながら訊ねる女に、男はハッとなり慌てて言葉を紡いだ。


「・・・・よろしいのですか?」


「あ、ああ・・・こんな雨の中、濡れていては風邪を引いてしまう」


そう、雨の中現れた女の姿は男には視線のやり場に困るのだ。

こんな美しい女、見たことがない。


ぴったりと張り付いた服は、女の身体のラインを綺麗に映し出し

漂う色香に飲まれてしまいそうなのだ。


「ありがたくいただきます」


頭を下げた女を見送り、男はその場に座り込んだ。

奥へ姿を消しても女の残り香が部屋には漂っていて、身体が熱くなるのが男にはわかる。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇





「お先に上がりました」


その声に顔を上げると、髪をゆるく一つに纏め渡された着物を身に着けて現れた女。


「そ、そうか・・・・これを飲んで少し温まってはどうだ・・」


男は女に用意していた酒を杯にいれると笑いながら差し出す。

かなり強い酒は、すぐに酔いが回る。

その事を知らない人が口につければあっと言う間に身動きが取れなくなるだろう。

初めて会った女だが、これほど美しく色香を漂わせていれば

酔わない男など存在しない。


「・・・・・・」


「どうした?風呂で温まりこれを口にすればすぐに身体も温かくなる」


じっと杯を見つめ返答をしない女に、男は視線をこちらに向けずに

杯を見ている女を嘗め回すように見る。


「・・・・そうですね・・・・」


いただきます。と女が杯に口をつける。


「良い、飲みっぷりだな・・・、ささ。もっと・・」


「いえ・・・あの・・・」


初めて困惑の色を見せる女に、男は有無を言わせず

肩を引き寄せトクトクと酒を注ぎいれる。


近くに寄った為か女の身体から香る甘い香りを吸い込むと

にやりと笑みを落とした。

それは、最初に見せた親切な顔など何処にもない。獣の顔を見せる。


「ほれ・・・・もっと・・・」


何度か注ぎ、飲ませると女の瞳が少し空ろになってきているのが

男にはわかる。

身体も男に預けるような格好になり、少し開いた唇は男を誘っているかのように見える。


どさりとその場に倒すと、男は酒の力で動かない女を姿を

まじまじと眺め、しゅるりと締めていた帯を外す。


「・・・・・・悪く思うなよ・・・宿泊の駄賃の変わりだ・・」


帯を外し、酒の所為なのかほんのりと赤くなっている肌に

吸い寄せられるように唇を当てると、女の身体がビクンと反応を示す。


「気持ちよくなるからな・・・・・」


そういいながら、思いっきり着物を左右に開き、あらわになった女の身体を見ながら

再び唇を女の肌に近づけようとした。








「そこまでですよ」








「だ、誰だ!!」



聞えた声に、振り返ると黒い外套を被った男が

女に覆いかぶさっている男をじっと見ているのがわかる。


「・・・・・あなたが触れてもいい人ではないのですよ」


「なんだと?」


邪魔された男は、女から離れると男に向きあう。


「邪魔しやがって」


「自分がどれだけ愚かな行為をしているのか、じっくりとわからせなければいけませんね」


外套を被っている男がそう言った瞬間、気がついたら男は壁に叩きつけれていた。

男は何が起こったのかわからない。

解るのは、背中に感じる激しい痛み。


「お・・おまえ・・・・」


「まだ気がつかないのですか?」


「どういうことだ?」


呆れた口調で話す男。

そして、深く被っていた外套を外した瞬間、叩きつけられた男は目を見開き言葉をなくした。


「お・・・まえ・・まさか・・・・」


「裏切り者は容赦しないと言ったでしょう?」


暗闇でもわかる色素の薄い茶色の髪。

穏やかな微笑みを浮かべる男。


「・・・・・・・・少し遅いわ」


「―――ッ!!」


聞えた声に男は目を見開く。

酒に酔いつぶれた女が、現れた男へ微笑みながら話す姿。


「まさか・・・・」


「探している人でしょ?」


「ええ・・・・でも、あなたの肌を見たのは少々苛立ちますね」


「あなたが遅いからよ『弁慶』・・・待ちくたびれたわ」


「すみません。咲弥」


その会話で、男は全てを悟る。

これは自分を捕らえる為の罠なのだと。


「ま、待て!」


「「・・・・・・・」」


男が突然声を上げた為か二人は無言で男へ視線を向けた。


「俺は、雇われただけなんだ!俺は・・・」


「そんな事を聞いているんじゃないんですよ」


「・・・・・・・お前がしたことは、それで償えるとでも?」


弁慶と咲弥は、冷えた瞳と声で男に返事を返す。


ゆっくりと近づく弁慶に、男はきょろりと辺りを見渡しながら

痛む身体を引きずり屋敷から逃げ出した。


まだ外は雨が降っていたが男には関係ない。

まさか、源氏の軍師「武蔵坊弁慶」がくるとは思っても見なかったのだ。


「は、はやくお頭に・・・」



「残念ですけど」


「っ!」


走る自分の前に現れた人物と声に男は驚きその場に座り込む。

さっき逃げたはずなのに、すでに自分の前にいる二人に困惑の色を隠しきれない。


「・・・・・・逃げられると思っていたの?」


咲弥の笑みは、男がさっきみた笑みとは違いひどく冷えた笑みで

そして言い知れない恐怖が体中に駆け巡る。


「裏切りは高いのよ・・・・『龍神の神子』を傷つける者は・・・」


にこりと笑みをみたと思った瞬間、自分の目線が地面に近いことに男は気がついた。

とっさに手を動かそうとしたが動かない。


「おや?自分の身体と頭がまだ一緒だと思っているのですか?」


弁慶の声に目だけ上に向けると、異様に彼らの顔が遠いのに気がつく。


「あなたはもう、生きてないのよ」


咲弥の言葉に、男はこれでもかと言うくらい目を見開き

自分が死んでいるのだと気がついた。












「・・・・・・・これで片付いたわ」


「でも、僕はあなたの身体に触れたこの男にこんな簡単な死に方なんて」


少し納得のいかない弁慶に、咲弥はさっきまでとは違う微笑を見せる。


「なら、弁慶が私を暖かくして」


「まったく。あなたは」


そう言っているが、弁慶の顔は穏やかな顔だ。

息絶えている男が転がっている姿をちらりと見たあと二人はその場を後にした。


















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あとがき

・・・・・・・・二人が同じ立場で一緒にいたらって思って書いたお話です。

ヒロインも弁慶も以外に腹黒いから・・・って思って書いたのですが

この内容、結構怖い・・・。

容赦ない二人に、書いた自分がちょっと・・・。


夢でみたお話なので起きたときは結構恐怖を感じましたよ。


二人の微笑みとかね。