手を伸ばす 必死にあなたを捕まえたくて
それなのにあなたは私に微笑みだけを残して居なくなった――
「――― どうした?」
呼びかけられて顔を上げると、将臣が心配そうに顔を覗かせる。
なんでもない。と小さく首を振ると少し眉をしかめ、小さく息を零した。
「咲弥・・・・」
「大丈夫だから」
きっぱりと言い放ち、戦場を見つめる姿に将臣は何も言えずぐっと拳を握り締めた。
「―…ねえ、将臣…」
「うん?」
「どこへ進むかな」
「咲弥・・・・・?」
紡がれた言葉の意図がわからない。
目の前にいる彼女の声がいつもより悲しげに聞えたのは聞き違いではない。
「ごめん・・・ちょっと弱気になった」
すぐに訂正し、顔を見せた彼女はいつもと変わらない笑顔だった。
***************
「弁慶」
「どうしました?」
九郎に呼ばれ、顔を向けると何か言いたげな顔を見せている姿が目に映る。
「九郎?」
「・・・・大丈夫か?」
「何がです?」
いや・・。と言葉を濁す九郎に、弁慶はクスッと笑いを落とす。
「九郎に心配してもらえるとは」
「べ、別に!そんな事は」
慌てる九郎に笑ってごまかしその場を跡にすると
小さく息を吐いた。
この身のすべてを捧げようと思った・・・。
あの瞬間に誓ったのだから
どんな事が起きようと、すべてを捧げるつもりでいたから。
それなのに・・
「どうしたんだい?冷静な軍師様とは思えない顔だぜ」
「・・・何を言いたいんですか?」
「いや・・」
弁慶に声をかけてきたヒノエをちらりと見据えると
今度は、手紙を差し出す。
「これは?」
「読んでみろよ。結構やっかいかいなことになった」
それ以上、口を開かないヒノエを横目に
書状に目を通し、その内容に顔を上げた。
「・・・・・ あの人を一緒に、ですか・・・」
「で、どうする?」
ヒノエの問いかけに弁慶は顎に手を沿え目を伏せると目を閉じた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふふふ・・・・・」
嬉しそうに笑いながら、彰子は隣に居る翔へ視線を向け
腕を絡ませた。
「いかがなさいました?」
「楽しいわ」
「・・・・・・」
「翔は楽しくないの?」
彰子は上目遣いで翔を見つめると、顔を近づけて唇を寄せる。
その行為を翔は受けながら、そっと離れる。
「翔?」
「使いのものがお見えのようです」
「・・・・・申し上げます・・」
部屋の外から聞えた声に、彰子は興味なさげに見て
もう一度、翔へ視線を向けた。
「彰子様」
「いいのよ・・・・」
言いながら、今度はさっきより深く口付けを要求すると
それに応えるかのように翔も応える。
「・・・・・・以上が、鎌倉殿のお言葉です」
「そう・・・・わかったわ」
彰子の言葉に、その声の主は「失礼しました」とだけ告げると
部屋を後にする。
それを見届けると、彰子は、翔へ視線を向ける。
「ほら。大丈夫でしょ?」
「・・・・そうですね」
「翔・・・・・・忘れては駄目よ・・・・そして、考えるのは私のことだけ」
にっこりと笑みを落とし、囁くように告げると
もう一度口付けを落とした。