「君は穢れた存在じゃないわ」
覚えているだろうか?あなたが私に告げた言葉を――――。
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「・・・・・・・・将臣殿、咲弥殿・・・・。すまない」
「いいって事よ・・・・。俺とお前は、初対面って事だろ?」
将臣の言葉に、敦盛はほっと胸を撫で下ろす。
咲弥は笑顔を見せているだけだ。
「さて、行きましょうか」
手を差し出す咲弥に、思わず顔を上げる。
差し出した咲弥は、驚いて自分を見ている敦盛を不思議そうに首を傾げる。
(私は・・・・・・・)
この手を掴んでいいのかと悩む。
あの戦いの後、気がついたら源氏の陣につれられてきていた。
神子の八葉だと望美に言われ、怨霊を封印する力を持つ望美に
『共に連れて行ってほしい』と頼み、今は源氏に身を寄せている。
その自分が、平家の将『還内府』と平家の『姫軍師』のこうして出会うとは夢にも思わなかった。
この場所に居ることは、二人が戦いに身を投じているあの戦場で
今度は敵として迎え撃たなければならないかもしれない。
「敦盛」
「・・・咲・・・弥殿・・・」
聞えた声に顔を上げると、いつもの穏やかな顔ではなく
軍師の顔を持つ咲弥の姿を捉え、敦盛はビクリと肩を震わせる。
「選んだのでしょう?彼女と共に居ることを」
「・・・・・・・・はい・・」
「なら、それでいいのよ」
思わず視線をそらし俯いた敦盛の頭を優しく撫でる咲弥。
その声に顔を上げると、先ほどまでの顔が嘘のようで。
微笑みを浮かべながら見つめている。
「あなたが生きている。それだけで私たちには十分なの」
「まったく・・・・・また変な事を考えていたのか?」
やれやれと言った顔で、将臣は敦盛に笑いながら咲弥と同じように
ポンポンと頭を叩く。
「私は・・・・・・」
「誰にも、あなたを非難する権利はないの」
言葉を紡ごうとした敦盛の言葉を遮り咲弥はきっぱりと言い切る。
「しかし・・・・・私は、怨霊で・・・・穢れて・・・」
「穢れた人なんて居ないわ」
「咲弥殿・・・・・・」
「大丈夫だから」
そっと抱きしめ優しく背を撫でる咲弥に敦盛はそっと目を閉じる。
(願わくば・・・この人たちがこれからも無事でありますよう・・)
これからの戦いで、二人とも命を落とすかもしれない。
その命を自分が奪い取るかもしれない。
けれど
ささやかな願いだけど
この二人には生きて欲しいと願う。
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あとがき
敦盛くんで、書きたい作品でした。
熊野で会った二人とのやり取りが足りないような気がしたので、
補足をかねて書いた作品です。