第五章 第参拾四話 海の闇(34) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

思えば不思議だった。

いつも将臣くんと行動を共にしている彼女。

それが当たり前に思ってたから。


「ありがとう」


その言葉に優しさを感じ。


「大丈夫よ」


その言葉に心が安らげた。







*******




凛とした姿は神々しくて誰もが言葉をなくした。

まさしく光臨した神の姿のようだと。

ふんわりと微笑を落とし、敵を見つめるその瞳は美しくそれでいて恐ろしかった。


「咲弥さん」


望美は今にも泣きそうな瞳をしながら、景時に銃を突きつけられている咲弥へ

声をかける。咲弥はにこりと笑みを落とすだけで返事を返すと

そのまま景時を見つめる。


「その運命を選ぶか?白虎に選ばれし者よ」


「・・・・・・・・・・・・・・・俺は、もう八葉なんかじゃ、ない・・・」


「違うわ。どんな道を選ぼうと、貴方は紛れもないこの世界の八葉」


「咲弥・・・ちゃ・・」

「八葉は・・・・あなたの駒じゃない」


「おもしろい」


咲弥の言葉が愉快なのか、頼朝は咲弥を見ながら口角をあげた。


「この道を進ませる・・・。将臣」


「これが・・・お前の言っていた言葉か・・・オッケー。いいぜ」


その言葉と同時に、将臣は望美の腕を取り、海原へ飛び込んだ。


「神子!」


「望美!!」


八葉の声が望美の耳に届き、思わず目を閉じ将臣にしがみつく。


「大丈夫ですか?」


聞こえた声に、顔を上げると弁慶とヒノエが自分を見ているのが解り

次々と八葉が自分の居る場所へ降りてきているのが解る。


「咲弥っ!!」


「心配ないわ・・・行きなさい将臣・・・。あの場所へ」


外套がふわりと風に靡き、はらりと船の中へ入ってくる。

その外套を取り弁慶は彼女を見つめる。


「・・・ごめんね・・・」


その言葉の意味を知ることすら解らないまま、船が走り始める。






******





「これで、源氏は終わりだ」


「・・・・・・・」


船が走る姿を見送り、咲弥は頼朝を見つめ呟く。

頼朝は、その言葉が面白いのか声を高らかに笑い始めた。

戦場にそぐわない笑い声に、隣にいた景時も眉をひそめる。


「あいつらが、大切か?平家の姫軍師よ!」


「・・・・・どうでしょうね」


「おもしろい。景時」


「・・・御意・・」


目があった咲弥の視線から逃げるように返事を返し

持っている銃を向ける。


「・・・・それは、私には届かない」


「・・・・・・・・・・咲弥・・・・・・ちゃ・・」


「届かない」


きっぱりと告げる彼女の声に、動揺を隠し切れない。


「景時」


背後から聞える声に、震える指で引き金を引いた。










◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇






「将臣くん!咲弥さんが!!」


「振り返るな!今はこの場から離れるんだ!」


どんどん遠ざかる咲弥の名前を泣きながら叫ぶ望美に

将臣は、険しい顔で自分の方へ向けると大声で叫ぶ。


「・・・・将臣・・・・くん・・・」


「これは、あいつの言葉だ『船の中の闇から抜け出せるのは七つの力と

 白い龍の加護を持つもの』・・・」


「どういうこと・・・?」


「これは、想定内と言うことですか?」


二人の会話の間に入ってきたのは弁慶。

そちらへ視線を向けるとそこに立っているのは

いつも穏やかな顔を見せる弁慶ではない。

軍師の姿の弁慶がそこにいる。


「軍師になるやつは、いつもそんなに感情を押し殺すんだな」


将臣の言葉に、ピクリと眉を動かすだけにとどまる。


「どちらへ行くつもりですか?」


「・・・・軍師の言葉とは思えない言葉だな・・・

・・・・お前はもう見当がついているはずだ。だからあいつがあの場に残った」


二人の会話についていけない。

望美は将臣と弁慶を見つめることしかできない。


「・・・・・・・・・とりあえず、ここから離れるしかありません・・・・」


先に言葉を発したのは弁慶。

みなそれぞれ悲痛な面持ちで船の上にたち

望美はぐっと手を握り締め戦いの場所へ視線を向けた。



「咲弥さん・・・・・」



切なく響く望美の声に、誰一人声をかける人などいない。



その間も船足はどんどん速く咲弥の姿見えなくなった。












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