思えば不思議だった。
いつも将臣くんと行動を共にしている彼女。
それが当たり前に思ってたから。
「ありがとう」
その言葉に優しさを感じ。
「大丈夫よ」
その言葉に心が安らげた。
*******
凛とした姿は神々しくて誰もが言葉をなくした。
まさしく光臨した神の姿のようだと。
ふんわりと微笑を落とし、敵を見つめるその瞳は美しくそれでいて恐ろしかった。
「咲弥さん」
望美は今にも泣きそうな瞳をしながら、景時に銃を突きつけられている咲弥へ
声をかける。咲弥はにこりと笑みを落とすだけで返事を返すと
そのまま景時を見つめる。
「その運命を選ぶか?白虎に選ばれし者よ」
「・・・・・・・・・・・・・・・俺は、もう八葉なんかじゃ、ない・・・」
「違うわ。どんな道を選ぼうと、貴方は紛れもないこの世界の八葉」
「咲弥・・・ちゃ・・」
「八葉は・・・・あなたの駒じゃない」
「おもしろい」
咲弥の言葉が愉快なのか、頼朝は咲弥を見ながら口角をあげた。
「この道を進ませる・・・。将臣」
「これが・・・お前の言っていた言葉か・・・オッケー。いいぜ」
その言葉と同時に、将臣は望美の腕を取り、海原へ飛び込んだ。
「神子!」
「望美!!」
八葉の声が望美の耳に届き、思わず目を閉じ将臣にしがみつく。
「大丈夫ですか?」
聞こえた声に、顔を上げると弁慶とヒノエが自分を見ているのが解り
次々と八葉が自分の居る場所へ降りてきているのが解る。
「咲弥っ!!」
「心配ないわ・・・行きなさい将臣・・・。あの場所へ」
外套がふわりと風に靡き、はらりと船の中へ入ってくる。
その外套を取り弁慶は彼女を見つめる。
「・・・ごめんね・・・」
その言葉の意味を知ることすら解らないまま、船が走り始める。
******
「これで、源氏は終わりだ」
「・・・・・・・」
船が走る姿を見送り、咲弥は頼朝を見つめ呟く。
頼朝は、その言葉が面白いのか声を高らかに笑い始めた。
戦場にそぐわない笑い声に、隣にいた景時も眉をひそめる。
「あいつらが、大切か?平家の姫軍師よ!」
「・・・・・どうでしょうね」
「おもしろい。景時」
「・・・御意・・」
目があった咲弥の視線から逃げるように返事を返し
持っている銃を向ける。
「・・・・それは、私には届かない」
「・・・・・・・・・・咲弥・・・・・・ちゃ・・」
「届かない」
きっぱりと告げる彼女の声に、動揺を隠し切れない。
「景時」
背後から聞える声に、震える指で引き金を引いた。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「将臣くん!咲弥さんが!!」
「振り返るな!今はこの場から離れるんだ!」
どんどん遠ざかる咲弥の名前を泣きながら叫ぶ望美に
将臣は、険しい顔で自分の方へ向けると大声で叫ぶ。
「・・・・将臣・・・・くん・・・」
「これは、あいつの言葉だ『船の中の闇から抜け出せるのは七つの力と
白い龍の加護を持つもの』・・・」
「どういうこと・・・?」
「これは、想定内と言うことですか?」
二人の会話の間に入ってきたのは弁慶。
そちらへ視線を向けるとそこに立っているのは
いつも穏やかな顔を見せる弁慶ではない。
軍師の姿の弁慶がそこにいる。
「軍師になるやつは、いつもそんなに感情を押し殺すんだな」
将臣の言葉に、ピクリと眉を動かすだけにとどまる。
「どちらへ行くつもりですか?」
「・・・・軍師の言葉とは思えない言葉だな・・・
・・・・お前はもう見当がついているはずだ。だからあいつがあの場に残った」
二人の会話についていけない。
望美は将臣と弁慶を見つめることしかできない。
「・・・・・・・・・とりあえず、ここから離れるしかありません・・・・」
先に言葉を発したのは弁慶。
みなそれぞれ悲痛な面持ちで船の上にたち
望美はぐっと手を握り締め戦いの場所へ視線を向けた。
「咲弥さん・・・・・」
切なく響く望美の声に、誰一人声をかける人などいない。
その間も船足はどんどん速く咲弥の姿見えなくなった。
第五章 海の闇 終了 あとがき