『克彦さん』
泣き虫で無鉄砲で、けれどいつも笑顔を浮かべて俺を見ていた。
触れると暖かくてそっと背を回してくれた手は誰よりも欲しかったと思った。
「克彦」
「・・・うるさい」
後を追いかけてくる絢乃に触れて欲しくないのか
伸ばした手を払うとスタスタと家路を急いだ。
何を忘れている
俺は何を忘れたんだ?
どんなに考えても思い出すことが出来ず
頭に霧があるようにぼやけいらだつ。
『克彦さん』
『壬生先輩』
遠い記憶で聞こえる声と
保健室で聞いた声。
あれは同一なのか。
それすら疑問に感じる。
だが、彼女に触れた瞬間何かをつかめるような気がした。
唇に触れ華奢な身体を抱きしめたとき
何かがあふれ出てきそうな気がした。
「それなのに・・・・。俺は・・・」
こぼれる涙が忘れてしまった何かを思い出させる気がした。
「うっ・・・」
激しい頭の痛みに声が漏れる。
立っていられないほどの激痛が襲い掛かる。
「克彦!」
「さわ・・・るなっ!」
膝を突き頭を抱える克彦に絢乃は駆け寄るが
痛みをこらえながらも、絢乃の手を振り払う。
「俺に・・・触るな・・」
痛みの中、克彦の意識は遠のき倒れてしまった。
「なんで・・・・なの・・・。克彦。あなたは・・・・」
倒れた克彦を見下ろし、絢乃は唇をきゅっ・・とかみ締め
意識のない彼の頬に触れきつく手を握り顔を上げた。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
あとがき
記憶はいつ戻るのでしょうか?