雨の持つ過去 三蔵編(6) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「・・・ぞう、さんぞう・・・」


声が聞こえる。

誰の声だ?


「三蔵」

「――――っ!!」




はっとして目を開くと、自分をじっと見つめる

八戒の顔が視界に入ってきた。


(・・・・・・・夢・・・・)


気だるそうに起き上がり、頭を軽く振り

サイドボードに置いてあったタバコを手に取り

火を着け、煙を吸い込むと独特の香りと苦さが口と

肺に入っていくのがわかる。


「大丈夫ですか?」

「八戒」

「ひどくうなされてましたから」

コップに飲み物を入れてくると
三蔵に手渡し、三蔵も受け取ると一口飲む
ようやく落ち着いてきたのか、鳴り止まない雨の音がやけに部屋に響く
隣のベッドを見ると、穏やかな顔で寝ている咲弥の姿が映る。




「起きないか・・・」

「ええ・・・咲弥になにか?」

「・・・・・・いや・・・」




身体を起こし、咲弥の頬にそっと触れる。


(生きている)

どうしたのか?どうして、自分はこんな行動をしているのか
わからない。わからない・・・・が彼女に触れてみたかった。

触れるだけで落ち着く
そんな感覚が三蔵の中にある。
いつもと違う三蔵の様子に八戒は何も言わず見ているだけ。




「三蔵、大丈夫ですか」

「ああ、すまない」




咲弥から離れると、三蔵は再び自分のベッドへ戻ると
雨が降り続いている外を眺める
そんな三蔵のところへ八戒も近づいてくる。




「雨は苦手ですね」

「八戒?」

「実は僕も駄目なんです。

雨の夜は」




「――――そうだったな」




(そうか、雨のせいか)




八戒の言葉に三蔵もそれ以上何も言うことなく

目がさえてしまった為

しばらく雨の音を聞いていた

しかし、雨の音を掻き消すかのように。

悲鳴が宿中に響き渡る。










「きゃあああああ!!」










「―――――!!何だ!?」




「行ってみましょう!」




悲鳴とガラスの割れる音にすばやく二人は反応して

部屋を出て行こうとしたが

宿の娘が三蔵たちの前に走ってくる。




「た・・・・助けてェ!!」




「どうした!?」




「調理場に・・・妖怪が・・・!!」




娘の言葉に、四人は急いで

調理室へ向かうと

襲った人間の腹を引き裂き

腸を引き出し食べている妖怪の姿が映る。
















グチャリ・・・ジュルル・・・ビチャ・・・・
















調理室に響く音に悟浄も八戒も顔をしかめる。




「調理場はなァ・・・・

モノを食う所じゃねェんだよ!!」




人を食べていた妖怪を蹴り飛ばし壁に打ち付ける悟浄

その悟浄に向かって隠れていた妖怪が襲い掛かる

その妖怪と悟浄の間に悟空が割り込み殴り床に叩きつける。




「寝起きイイじゃんかよ。悟空ッ」




「たまにわねッ

さてとコイツらどーす・・・」




ヒュンと音が聞こえたかと思ったら

倒れていた妖怪の身体に無数の札が貼り付けられる

妖怪の断末魔と共に聞こえてきた声に

三蔵は顔色を変える。




「?」




「な・・・・何だァ!?」




「ダマカラシャダソワカ

ウンタラタカンマン・・・・」




(この声・・・・・・!!)




やせ細りぎょろりとした目

シャランと鳴らした杓を肩にのせた男は二匹の妖怪を倒した後

醒めた目で三蔵たちを見つめる。




「我が名は六道

この世の妖怪は一匹残らず俺が滅する」




(あの数珠、あの顔―――間違いない)




現れた人物に三蔵は驚きを隠せない


夢で見た人物。

その人物に十年前の顔がだぶる。










(朱映・・・!!)