記憶がなくとも 求めるのはあの人の瞳。腕。
けれど、今はあの人を求めることも許されないの?
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「で?」
「なに?」
昼食の時間。いつもと同じメンバーで図書室へ集まり
食事を開始した瞬間、晶が私に声をかける。
晶の言いたい意味が始めは飲み込むことができずに
思わず間抜けな問いかけを返しながら、他のみんなの顔を見た瞬間
それはすぐに何なのか理解した。
いつも昼食時間。いつものメンバー。
けれど、違ったのは。
「兄ちゃんは、一人で食べるって」
小太郎君の言葉を思い出して
少しだけ隣の空間を見つめる。
いつもは私の隣に居て、私や他のみんなのおしゃべりを聞きながら
黙々と食事をしている克彦さんの姿はここにはない。
「・・・・まだ。思い出さないのかな?」
「う・・ん・・・。」
ぎこちなくうなずく小太郎君に、亮司さんも肩をすくめ
苦笑しながら私を見ている。
「仕方ないわ。周りがあせっても仕方がないから」
私の言葉に、みんな頷くだけ。
あせっても仕方がない。
みんなに言っているようで、自分に言い聞かせたのかもしれない。
「少し、出るね」
「あ!姉さん!」
この場に居るの事が少しつらくて
思わず席を立ち、陸の呼びかけにも返事を返さず
逃げるように図書室をでた。
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「なに・・・・やっているんだろう」
逃げるように、裏庭の木陰にぽつんと座ると
じわっ・・と涙があふれる。
こぼれないように、必死で唇をかみ締めるけれど
あふれてくる涙を止めることは叶わなくて
肩が振るえ、かみ締めた唇から嗚咽が漏れる。
「ふっ・・・・く・・」
泣いても克彦さんが来るはずもない。
いつもそばに居ると思った。
あの戦いの後、心通わせてからはずっと。
どんなときも私のそばに居て、私を厳しくも優しく導いてくれたあの人が今は居ないのだ。
「なん・・・で・・・」
どんなに、どんなに考えても彼が記憶を失った原因が見つかるはずもなくて
自分の無力さをイヤというほど見せ付けられているようで
苦しくて。そして悲しかった。
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あとがき
珠洲ちゃんが泣いちゃった・・・。ごめんね・・。