「弁慶!!」
聞こえてきた声に、意識を戻される。
誰もが僕の方へ視線を向けている。
「お前・・・何があったんだ?」
「・・・・すみません」
九朗の問いに、謝罪でしか答える事しかできない。
そんな僕の態度に、九朗はきつく唇をかみ締め腰を上げると
部屋から出て行く。
出て行く九朗を慌てて他の武将たちが追いかける姿を
僕は何も言えずに見送るしかなくて。
「本当に大丈夫?弁慶」
「ええ・・。すみません景時。あなたにも心配をかけてしまって」
「いや・・。俺はいいんだよ。でも最近の君はちょっと」
言葉を濁して、頭をかく景時に僕は苦笑いを浮かべることしかできなくて。
戦いの最中なのに、僕の思考はあの出来事だけがよぎっていて。
「少し、頭を冷やしてきますね」
景時の返事も聞かずに、僕も部屋から足早に出て行く。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「まいった・・・な」
外の空気を吸いながら僕は、ぼんやりと景色を眺める。
少し離れた場所で、龍神の神子である望美さんと剣の師匠リズヴァ―ンさんの姿が見える。
一生懸命に剣の稽古をつけてもらっている彼女の姿をぼんやりと見つめていると
「弁慶さん」と呼ばれる声が聞こえた。
振り返ると、そこにはあなたがまっすぐに僕を見つめている。
「どうしましたか?」
「・・・・・」
「咲弥さん?」
「どうかしたのは、弁慶さんではないですか?」
一瞬視線をそらしてすぐに、僕を見つめ直しあなたは口を開いた。
「そんなことはありませんよ」
「でも!」
「あなたの告白で、僕がおかしくなっているとでも?」
「それは・・・」
「たいそうな自惚れですよ。僕はそんなに弱い男ではないし、
まして君には関係のないことだ」
告げた僕の言葉に、あなたは何も返す言葉もなく
ただ黙って僕の顔を見つめているだけ。
「ごめんなさい・・・。私には、関係のないことでしたね」
しばらく経ってようやく口から出た君の返事。
少し寂しげに瞳を揺らし、それでも笑みを絶やすことを忘れずに僕に告げると
その場から逃げるように走り去った。
「ようやく君と話しても、僕は君に冷たく当たってしまう」
それでも僕は 君の瞳に自分を映したいんだ。
ただ偶然を待つ
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あとがき
恋のチャンスは熟れているときに
もがなければならない果実のようだ
一度地から落ちたら二度とチャンスはないだろう(ポール・マリー・ヴェルレーヌ)
そんな様子を描いてみました。