切ないこの想いは、誰に伝えたらいいの?
「望美?」
「あ、朔」
ぼんやりと縁側で腰をおろし、月を眺めていた望美に
朔は声をかけた。声をかけられた望美も朔の声に反応し
笑顔を見せて振り返る。
「どうしたの?こんな時刻に・・」
決して早い時刻ではない。
まだ明かりがついている部屋があるものの、ほとんどの人が
すでに夢の中にいるはずだ。
なんとなく・・と告げた望美は、ぎこちなく笑みを落とし
そして空を見上げる。
「・・・・・」
「・・・・・」
「ねえ・・・・。朔」
ムシの音を聞き互いが黙って数分
望美は朔へ視線を向けないまま、声をかけた。
「・・・・私は、間違っていないよね」
「望美・・・」
「私は白龍の神子で・・・。怨霊を使う平家を許せなくて・・・
それに・・・」
思い出すのは、平家の陣であった後姿。
少し大人びた幼馴染の姿。
誰にも言えずにこの世界へ迷い込んで、守りたい人の為に手を血に染めた。
大切な大切な幼馴染。
敵として出会ったあの瞬間の顔が頭から離れない。
「・・・・・・なんで・・・・」
「望美・・・?」
「なんで・・・・かな・・・・・」
自分を心配そうに見つめながら声をかける朔。
けれど我慢していた涙を抑える術は見つからなくて。
思わず膝を抱えて零れる涙を隠した。
(将臣くん・・・・・将臣くん・・・)
心で叫んでも、その名を持つものへ届くはずもなくて。
けれども堪え切れなくて。
「・・・・・私には望美の心の中までは分からない。でもね」
膝を抱える望美をそっと抱きしめ朔は言葉を紡ぐ。
「望美は間違ってないわ。望美の出現はどれだけ私に勇気を与えてくれたか」
「・・・・・・・・・・私は、何もしてないもの・・・・」
「そんなことないわ。望美が私の片割れで嬉しいわ。本当よ」
くぐもった声で答える望美に、朔は優しく問いかける。
そんな朔の声に、涙で頬を濡らしながら望美は顔を上げる。
望美の視界に写るのは、いつもと変らず微笑みを浮かべる朔の姿。
その朔の姿に、ダブり、なぜか将臣と旅を共にしている咲弥の姿がちらついた。
けれど、それは本当に一瞬のことで、このときの望美に考える術はなかった。