記憶の奥で(5) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

開いた瞳はいつもと同じ強く凛とした瞳。

けれど告げられた言葉に頭がついていくことが出来なくて――。









「お前達誰だ?」


「何言っているんだよ。兄ちゃん。珠洲と陸じゃねえか」


初めて見るかのように珠洲と陸に尋ねる克彦に小太郎が驚きながら告げるが

克彦本人は少し考えたが首を軽く振る。


「覚えてない・・・。ここは?」


「綿津見村だよ」


背後から聞こえてきた声に振り返るとそこには

いつもと同じ微笑を見せる亮司さんと複雑な顔を見せている晶の姿があった。

私の頭をぽんと叩き、私に微笑む亮司さんに私も笑顔を返すが

上手く笑えていたかは疑問。


「何があったのか、覚えていないのかな?」


「・・・・・・ああ。思い出そうとすると頭が痛い・・」


「なるほど・・・・ね」


そんな二人のやり取りを私は黙ってみているだけでしかなくて。


「克彦」


「絢乃・・か。どうしてお前」


「どうしてって・・。貴方が倒れたって聞いて慌ててきたのよ。そんな言い草あるの?」


「そうか・・・・」


亮司さんとのやり取りを一部始終見ていた絢乃さんは痺れをきらしたかのように

克彦さんに声をかけ、克彦さんもそれに応じている。


(克彦さん・・・。絢乃さんの事は、覚えているんだ)


ずきりと心が痛んだ。

自分やこの村のこと。守護者のことはおぼえて無くても

彼女のことは覚えている。

それは克彦さんの中でとても大切なことで。

そんな風に思ってはいけないって頭ではわかっているのに

心のもやもやはなくならない。

でも、それをいえるほど私は勇気もなくて。


「怪我も問題ないね。しばらくは安静にするといいよ」


「・・・ああ」


「では、行こうか」


亮司さんは、この場に駆けつけた私達に声をかけている。

けれど正確には私へ視線を向けているのが分かる。

それは他の守護者も同じことだけれど。


「・・・・それでは、壬生先輩。お大事に」


克彦さんの顔を見ることが出来なくて

早口で告げるとぺこりと頭を下げる。


「玄関まで送るよ」


「いいよ。小太郎君も疲れているだろうし」


「でもさ・・」


「いいの、では失礼します」


小太郎君の優しさはありがたいけれど

今の私にはそれを受け入れるほどの心の余裕がなかったから。














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あとがき

珠洲ちゃん・・・、本当にごめんね(土下座)