月光(1) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

私の願いは貴方の側にいる幸せ。それ以外何も願わない。

けれど、それは貴方を苦しめる結果になっていますか?


「初めてお目にかかりますね」


「・・・・・はい」


視線を下へ落とし、咲良は御簾越しに対面している人返事をしながら頭を深々と下げた。

きらびやかな十二単に身を包み、藤原邸に現れた人物に

この屋敷の小さな主二人は驚きを隠しきれず頭を下げたままの咲良を不安そうに見つめる。


「本日の用向きはわかるかしら?」


凛としてそれでいて、低すぎず高すぎ通る声で咲良へ尋ねる。


「・・・・・東宮さまのことで、でしょうか?」


ほんの数分の沈黙の後、咲良は顔を上げて答える。

その答えに満足したのか、その人は満足げに頷く。


「なら、わたくしの用件も知っていることでしょうね」


「はい・・・」


いつの間にか震えている声に驚きながらも、咲良は次にくるであろう言葉を待つ。


「東宮様はとても聡明なお方です。そしてこの国に必要不可欠なお方。

 その東宮様が、無位の者へ通っている。その話を聞いたときは驚きました」


「・・・・・・・」


「あのお方は将来を、いえ国を治める人。そのお方の妻にあたる者が

 何の身分も無いとは誰も赦すまい。そう思いませんか?」


「・・・・・・」


ぎゅっと唇をかみ締める。分かっていたことだから。


「龍神の神子様なら、まだわたくし達も納得しましょう。けれど貴方は―――」


鬼との戦いの後、本来は元の生活が始める予定だった。

彼がここへ来る理由。それは藤原が〔星の一族の末裔〕だから。

龍神の神子を護る八葉だから。

けれど、彼は・・・・。


「恐れながら中納言様。咲良様は龍神の神子さまと同じように不思議なお力もお持ちのお方。

 位はありませんが、神子さまと同じように鬼の一族を退けた尊きお方。ですから」


「藤原の姫、彼女の力がどれほどあるのか知りませんが、東宮様はいずれ左大臣の姫を娶っていただく予定 

 側女としてならまだしも、恐れ多くも東宮妃として迎え入れたいとわたくしに告げたのです」


苛立ちを隠しきれない雰囲気をもちながら中納言は、きつく咲良に視線を向ける。


「もう、鬼の一族はいない。それならば貴方は、御自分の世界へお戻りになるのが必然。

 それなのに」


「中納言様!それはあまりにも咲良様に失礼ではありませんか?

 咲良様がどれほど京にご尽力いただいたか・・。帝も院も・・」


「ええ・・・。確かに、それでもこれ以上は雅な貴族には必要な人ではありません

 良いですね。東宮様を慕っているのならそれなりに」


なおも食い入ろうとする紫に、話しは終わりとばかりに告げると部屋を出て行く。

納得しない紫は、咲良に軽く会釈すると中納言を追いかける。

咲良は何も答えることが出来ず、黙って俯いていた。


「なぜだ?何故何も言わない。お前は・・」


ぽたり・・・

ぽたり・・・


床に落ちる雫。


「咲良・・・」


「分かっている。・・・・わかっている。言わないといけないって・・でも・・・」


人望も厚く、鬼の恐怖に怯えることなく始まった日常に彼がどれほど必要な存在か。

だからこそ、自分は彼に相応しくありたい。彼の隣にいても恥じない人になりたいって思っていた。

けれど・・・・・。


「分かっているの・・・・・」


自分の存在が、彼に負担になっていることが今日分かった。

でも、どうしてもあきらめるなんて出来なくて・・・。

それを言ってしまうのはわがままに思えて・・・。









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あとがき

本編すら終了してませんが、こちらは10話ほどで終了の予定です。

しかし、最近新しい物語を更新しているような・・・。