二人で歩くこと数分。
広がる光景に、銀は息を呑んだ。
隣で一緒に眺めている香織は、嬉しそうな笑顔を見せて
少し先へ歩き始めた。
眼前に広がるのは、目もくらむような桜並木。
さらさらと風が靡くと同時にピンクの花弁が舞い落ちるその光景。
「綺麗でしょう?銀さん」
「・・・・ええ・・驚きました」
「ここは内緒の場所です。村の人も知らないんですよ」
銀さんにだけ特別に。
そう微笑む香織の姿は本当に美しく
自分と別の世界にいるように思えて仕方ない。
一歩踏み出せば、己もその空間に入りこめる。
けれど・・・・・・・。
(ここは、私には綺麗過ぎる場所)
己の足元へ視線を落とす。
どれだけ許されようとも、己に許されるのだろうか?
この綺麗な世界に留まることが。
「貴方は罪などない。人は誰かを裁く権利などない。
貴方はまだ死ぬことを許されてなどいない」
かつて己に告げた愛しい人の言葉
「そして見つける。貴方は貴方の愛しい人を」
そんなことあるのだろうか。
視線を上げると、桜を眺め嬉しそうに微笑んでいる香織の姿が映る。
はらりと目の前に落ちる花弁を両手で救い上げ愛しそうに受け取る彼女を見て
「し、銀さん!」
はっと香織の慌てた声に我に返る。
いつの間にか自分の腕に抱き寄せている。
「す、すみません。貴方が・・・・」
「え・・・・」
「いえ・・・。すみません。驚かせましたね」
そっと腕を離し距離を開けると頭を下げた。
「だ、大丈夫ですから」
顔を赤らめて、はにかむ香織の姿に銀はじっと見つめた。
自分が何故彼女を引き寄せたのか、その訳を知りたいと思ったが
ゆるく頭を振り、彼女に笑顔を見せるだけにとどめた。