第三章 第拾五話 決して届かぬ月のよう(15) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

その光景は嬉しくて笑いがこみ上げるほどだった。


一瞬の後姿。


間違えるはずがなく。久しぶりに笑ったような気がした。




「そうよね・・・・。許しては駄目なのよね」




髪を軽くかきあげにやりと笑みを落とす。


見上げた空はまるで血の色のように真っ赤に染まっていた。


現れた人物が全ての運命が変る瞬間であり


また悲劇の始まりだった。




*************




「源氏の神子が?」




「どういうことだ?」




密偵からの報告に、咲弥は思案にふける。


新たに現れた源氏の神子と呼ばれる存在。


それは、彼女が知っている春日望美の風貌とは違う。


怨霊を浄化するのではなく、あわられた怨霊を己の意志で従わせる。


それは清盛が持っている黒龍の逆鱗ではいけないはず。


こちらの意志で出した怨霊が今度はこちらを攻撃するのだ。


その様子は、まるで修羅さながらの様で。


傷を負いながら戻ってきた兵士の口から告げられる言葉に、


隣にいる将臣も眉をしかめる。




「ご苦労でしたね。下がってください」




「はっ・・・」




短めに告げると、咲弥は両手を組んで目を閉じる。


明らかに運命が変っている。


けれど――――。




「・・・い。おい。咲弥」




「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ」




「どう、思う?お前は・・・。あちらの神子について」




「何かが光臨したか・・・」




ぼそりとつぶやいた言葉に、将臣は首をかしげる。




「咲・・・」




(神子が何人も存在するはずがない。ココでの神子は2人のはず


 3人目の神子の出現は・・・・)




すくりと立ち上がると、もう一度深く外套を被りなおす。




「様子を調べたい。熊野へ行く許可を頂戴」




「おい。お前自ら行くのか?」




「戻ってきた彼の様子を見たでしょう?生きて帰ってきたのが奇跡よ


 私が行きます」




有無を言わせぬ言葉に、将臣はじっと見つめるだけ。




「貴方も行きますか?将臣」




「俺も、お前と共に熊野へ行こう」




「知盛・・・」




襖を開け気だるそうに告げる知盛の出現に将臣は


咲弥へ視線を投げる。




「いいわ。行きましょう。熊野へ。そこで分かる」




己の想いを封印しましょう・・・・・。


この想いは不要なのだから・・・。


ねえ――――


あなたもそう想うわよね。




鬼若・・・・




いいえ・・・・






武蔵坊弁慶・・・・・・・