その光景は嬉しくて笑いがこみ上げるほどだった。
一瞬の後姿。
間違えるはずがなく。久しぶりに笑ったような気がした。
「そうよね・・・・。許しては駄目なのよね」
髪を軽くかきあげにやりと笑みを落とす。
見上げた空はまるで血の色のように真っ赤に染まっていた。
現れた人物が全ての運命が変る瞬間であり
また悲劇の始まりだった。
*************
「源氏の神子が?」
「どういうことだ?」
密偵からの報告に、咲弥は思案にふける。
新たに現れた源氏の神子と呼ばれる存在。
それは、彼女が知っている春日望美の風貌とは違う。
怨霊を浄化するのではなく、あわられた怨霊を己の意志で従わせる。
それは清盛が持っている黒龍の逆鱗ではいけないはず。
こちらの意志で出した怨霊が今度はこちらを攻撃するのだ。
その様子は、まるで修羅さながらの様で。
傷を負いながら戻ってきた兵士の口から告げられる言葉に、
隣にいる将臣も眉をしかめる。
「ご苦労でしたね。下がってください」
「はっ・・・」
短めに告げると、咲弥は両手を組んで目を閉じる。
明らかに運命が変っている。
けれど――――。
「・・・い。おい。咲弥」
「ああ、ごめんなさい。大丈夫よ」
「どう、思う?お前は・・・。あちらの神子について」
「何かが光臨したか・・・」
ぼそりとつぶやいた言葉に、将臣は首をかしげる。
「咲・・・」
(神子が何人も存在するはずがない。ココでの神子は2人のはず
3人目の神子の出現は・・・・)
すくりと立ち上がると、もう一度深く外套を被りなおす。
「様子を調べたい。熊野へ行く許可を頂戴」
「おい。お前自ら行くのか?」
「戻ってきた彼の様子を見たでしょう?生きて帰ってきたのが奇跡よ
私が行きます」
有無を言わせぬ言葉に、将臣はじっと見つめるだけ。
「貴方も行きますか?将臣」
「俺も、お前と共に熊野へ行こう」
「知盛・・・」
襖を開け気だるそうに告げる知盛の出現に将臣は
咲弥へ視線を投げる。
「いいわ。行きましょう。熊野へ。そこで分かる」
己の想いを封印しましょう・・・・・。
この想いは不要なのだから・・・。
ねえ――――
あなたもそう想うわよね。
鬼若・・・・
いいえ・・・・
武蔵坊弁慶・・・・・・・