第三章 第九話 決して届かぬ月のよう(9) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

それは、一瞬望んだ幻だったように、甘い一夜だった。

静かな夜。二人で三日月の月を眺めていた。

聞こえるのは、小さくなくムシの音だけ。


「綺麗な三日月」


「そうですね」


「月見酒。満月ではないけれど、いいでしょう?」


にこやかに微笑み咲弥は、弁慶に杯に入った酒を渡す。

そんな行動に弁慶も笑顔で答え杯を受け取り、口につけた。


「美しい人からの頂くものは、また格別ですね」


「本当に、お上手ですね」


さらりと言葉を交わし自分の持ってきた酒に口をつけ

杯を置くと、柔らかな光を射す月を見上げる。


「・・・・・そろそろ、平家の兵士も警戒を解くかもしれません。

 貴方も貴方の居場所へ帰る頃ですね」


その言葉に、口に持っていきかけた杯の動きを止める。

告げた咲弥へ視線を向けるが彼女は弁慶の視線に気がつかない。

月の光に映し出される。





嬉しかったの・・・・・。本当に、願いが叶って




近くに居るのに、こんなにも遠くにいるような気配を感じ

思わず腕をつかみ視線を無理やりこちらへ向かせる。

その弁慶の強引な行動に、咲弥は目を丸くしてこちらを見つめる


「鬼若く・・ん?」


「僕は・・・」


言いかけてはっとなる。今何を告げようとした。

思わず言いかけた己の名。

彼女にはこの名で呼んで欲しくなくて。

彼女はつなぎ止めなければいけないような気がして。


「疲れたんですか?では・・」


「―――――がう」


「どう―――」


小さくつぶやいた言葉

再び訪ねようとして顔を覗き込むように見つめ言葉を重ねようとしたが

それを紡ぐことは叶わず。

荒々しく口付けを受ける。

突然の弁慶の行動に、目を見開き力いっぱい身体を離すと

信じられないというような顔で弁慶を見つめた。


「何を・・・。バカにしてるのですか?女はみなそんな存在だと」


「・・・・・・・」


「貴方を軽蔑します」


きつい瞳で弁慶を見つめ、くるりと背を向けるときつく唇をかみ締め

廊下を歩き始める。


「待ってください!」


歩き始めた咲弥を後ろからきつく抱きしめ己の腕に閉じ込めた。

そんな弁慶に咲弥は離して欲しくて必死にもがくが弁慶の腕はびくともしない。


「離して!」


「僕は!」


声を上げる咲弥にかぶさるように弁慶も叫ぶ。

その声に咲弥は動きを止め抵抗をやめる。


「僕は、貴方をそんな女と同じように見たことなどない。

 貴方だから」


「鬼若く・・・ん」










「貴方だから欲しいんだ」