夜が全てを隠してくれる。苦しみも哀しみも全て。
素性も何もかも。
「あっ・・・」
「隠さないで・・・。君を見せてください」
「ふぅ・・・ん・・・」
零れる吐息を必死に堪えようとする姿が愛おしい。
出会ってまだほんの数日。
それなのにこんなにも手放したくない想いを感じるなんて夢にも思わなかった。
酸素を欲しがり口を開いたふっくらとした唇に己の唇を当てると咥内をむさぼる。
二人が奏でる水音だけが部屋に響いた。
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一緒に見上げた月に酔わされた。その表現が正しかったのか。
「咲弥・・・」
無意識に隣の体温を探す。
しかし手に暖かなものを掴むことはできず、ゆっくりと起き上がる。
陽はすでに高く上がっており彼女の姿はなかった。
「こんなに寝てしまうとは」
初めてこんなに深く眠ったようなきがした。
今までどんな女性と夜を明かそうとこんなに深く眠ったことはない。
貴方を見せて・・・・・・・
貴方に全てあげるから・・・・・
昨日の彼女の言葉が頭をよぎる。
吐息と共に告げられた言葉。
甘い吐息。象牙の滑らかな肌は手に吸い付くようで。
夢中でむさぼりつくした。
「やばい、な」
思い出すだけで身体が熱くなる。
彼女を欲しくなる。
軽く首を振りながら、手早く身支度を整えると彼女がいるであろう
庭へ足を向けた。
「・・・咲弥・・」
声をかけても彼女の姿がどこにもない。
しん、と静まり返った屋敷内。
その異様な空気に弁慶は神経を尖らせる。
先ほどまでの穏やかな思いは消える。
「どこ・・に」
「鬼若くん?」
いきなり背後から聞こえてきた声に思わず振り返る。
急に振り返った弁慶に声をかけた咲弥は思わず身構える。
「咲弥・・・・。どこへ行っていたんですか?」
「どこって、買い物です。良い魚があったので」
首をかしげ不安そうに答える咲弥に弁慶は心を落ち着かせ
彼女の不安を取り除こうと笑顔を見せるとそっと抱きしめる。
「びっくりしまいた。貴方がいなくなったと思って」
「変な鬼若くん」
くすりと笑うと、咲弥はそっと弁慶から離れると食事の支度をしますとつげ
側から離れる。その後姿を見つめながら
弁慶はようやく肩の力を抜いた。