第二章 第拾三話 まどろみの中で囁いて(13) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「ここで、お別れだ」


そう言った将臣くん。ずっと一緒にいることは出来ないその姿に

私の胸はちくりと痛んだ。


「また会えるわ。大丈夫よ」


咲弥さんの言葉に頷きながら、私は二人の姿を見送ることしか出来なくて

そしてどこからともなく吹いてきた風が、

季節の変わり目を告げていた。


熊野水軍を引き入れるようにとの、願いも虚しく

熊野別当は首を縦にすることはなかった。

私には、誰が熊野別当だったのか分からない。

副官と呼ばれる人が、別当の声を私達に伝達しただけ。

でも、平家にも組しないとの言葉に

上々だと、弁慶さんも景時さんも言っていたので

私達は、再び京へ戻った。

京へ戻った私達に待ち受けていたのは、再び平家との戦のことだった。






◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


その頃、平家では。

熊野から戻ってきた将臣と咲弥の戻りを嬉しそうに報告していた。


「還内府殿のお帰りだぞ~!」


「姫神子様!」


兵士の案内で、経正や知盛の元へ向かう。


「熊野はやはり、源氏へ組するのでしょうか?」


部屋の中では、不安げな様子で話をしている経正の声が聞こえる。


「熊野は源氏にはつかねえよ」


「還内府殿!姫!」


がらりと襖を開けて、どかりと座る将臣の姿に

経正は驚き、隣にいた咲弥へ視線を向ける。

そんな経正に咲弥は微笑みながら頷いた。


「そうですか・・・・」


「まあ、平家にも組しないがな」


「・・・・・それでもいいのよ。あちらがどちらにも組しなければ」


「そう・・・ですね」


「で?これから、いかがなさるおつもりか?兄上?」


「嫌味か?」


くっと笑いながら将臣に訪ねる知盛。


「まあ、不本意ながらお前の好きな戦になるだろうさ」


「なるほど・・・。姫のお言葉は?」


「彼と同じでいいわ」


「なるほど・・・」


笑顔で告げる咲弥に知盛は側によると

顎を自分のほうへ向けると

唇が触れるほどまで近づく。


「何を悩んでおいでかな?姫」


「何も悩んではいないわ」


「そんな瞳、俺にだけ見せてくれると嬉しいんだがな」


「今は貴方を見ているわ」


「ふっ、お前の身体も心も俺のモノになってほしんだが・・・」


「残念ね・・・・」


「まったくだ」


すい、と咲弥からどくと、杯に注がれた酒に口をつけ

くい、と飲み干した。


「とにかく、今日はお二人の帰ってきた日。宴を」


穏やかな口調で告げた経正の言葉に

二人の姿を呆然と見ていた者たちは慌てて準備に取り掛かる。


「・・・まったく、お前たちは・・・」


「将臣」


「ん?」


「心しなさい。貴方の心を打ちのめされないように」


「咲弥?」


「それが、貴方の未来を決める」


不思議そうに見つめる将臣を背に立ち上がり

襖をがらりと開く。

しんしんと、雪が空から舞い落ちている。



「運命の道は、この道だったのね・・・・・。望美ちゃん」



振り落ちる雪を眺めながら咲弥はそっとつぶやいた。