第二章 第五話 まどろみの中で囁いて(5) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

1184年(寿永三年)1月26日

平家と源氏摂津(一の谷)に集結した。

各々の軍を率いるのは、

平家軍 還内府こと平重盛、そして未だ謎に包まれた平家の姫軍師

源氏軍 源頼朝の実弟義経、戦奉行梶原景時、軍師武蔵坊弁慶である。

その源氏の中には黒龍の神子梶原朔・白龍の神子春日望美の姿もそこにあった。

改めてその光景を見た瞬間望美は唇を真一文字に結んだ。


「神子?平気?」


「大丈夫よ。白龍」


望美の裾を引っ張りながら訪ねる白龍に望美は笑顔で答える。

その言葉に白龍は嬉しそうに抱きついた。


「大丈夫だから。心配ない。八葉が、いる。神子を、護る」


「ありがとう。白龍」


頭を撫でてやると嬉しいのか笑顔を見せた。

小さな子供が実は龍神だと誰が信じるだろうか?


「いいかな?望美ちゃん」


そんな二人に、景時が声をかける。

頷き景時の話に耳を傾ける。


「これから――――」




◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



その頃平家の陣

将臣が状況を確認しながら黙って一点を見つめている。

隣には平家の姫軍師の姿が。


「一の谷、か」


「どうしますか?還内府殿」


「一の谷に兵を集めろ。奇襲があるかもしれない」


「あの谷にですか?あの谷を使って奇襲をかけるとは思えませんけど」


困惑気味に平経正が将臣に尋ねる。


「あんな田舎侍相手に怖気づいているのですか?」


嘲笑した様子で惟盛は告げた。


「どう思いますか?姫」


経正は今まで何も言葉を発しない姫に声をかける。


「・・・・・・貴方の言いたいことも分かります。経正様

 けれど念のために兵を二分に。こちらの一の谷の奇襲に備えた

 兵をあちらに気が付かれたら攻撃せずに退却、それでいいかしら?」


「兵を二分など、余計に危険では?」


「二分にしたのならそれなりの策もあるのでしょうね。姫軍師」


「あるわ。これ以上の詮議は無用。始まりますよ」


惟盛の言葉をばっさりと切り捨てると同時に風が強く吹き頭まで深く被っていた外套が外れる。


「あなたも、私達の案にいちいち難癖つけるならそれなりに功績を挙げてくださいませ

 惟盛様。何度源氏の兵に敗れているとお思いですか?」


「・・・っ!いいでしょう!誰が一番優れているのか分からせましょう!」


「おいおい、くれぐれも単独行動は控えてくれよ」


「貴方に指図されるいわれはありません」


「惟盛殿!」


将臣に吐き捨てるように告げた惟盛に経正は声を荒げるが

その言葉を聞くことなく惟盛は姿を消す。


「あれでは、まだまだ。だと思うけどね」


「まったく」


将臣は大きくため息を吐きながら外套を外した姫を見る。


「正論よ。私の案でかまわないかしら?還内府殿?」


「ああ。いいぜ。配置に着かせよう。サンキューな。軍師様」


「嫌味ね。いつもなら、咲弥って言うくせに」


外套を再びつけると広がる光景に目を細める。


「戦いが始まるわ。将臣」


「そうだな」










戦い開始 二時間前の出来事であった。