この人は軍師なのだと思った。
同時にこの人の側に居たいと思ったのも事実。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「弁慶さんも眠れないんですか?」
「・・・そうですね。僕は少しやることがあったので起きていたんですよ」
問いかけに少しの沈黙の後返事を返すと
月へ視線があったが、咲弥へ視線を向ける。
弁慶の視線を感じたのか、咲弥も同じように月から弁慶へ視線を向けた。
「そうですか、お仕事で?」
「そんなところですね」
「大変ですね」
「そうでもありませんよ」
にこやかに微笑み会話を楽しんでいるかのような二人。
けれど、咲弥には気がついていた。
微笑みの奥は鋭くこちらをうかがっていることを。
おそらく、望美はその対象ではないだろう。
彼女は龍神の神子だ。
龍神の神子はこの世界では稀有な存在。
その存在が、この先彼にとって絶対的な力になることは間違いない。
ならば自分は?
いきなり、現れた自分は。
白龍が【八葉】と位置づけた将臣。
けれど、彼は将臣ですら警戒を緩めない。
それはおそらく彼にとって、信頼に値するものすらも持っていないから。
下手したら『敵』かもしれない人物を信頼するとは思えない。
それが、【龍神の神子】を護るべき【八葉】だとしても
軍師たるものは、全てにおいて警戒をしなければならないのだろう。
それに越したことはない。
「月を・・・」
「・・・・・」
「月を見ていました」
ぽつりとつぶやき、弁慶から視線をそらさずまっすぐに答える。
そんな咲弥をじっと見つめる。
「綺麗ですね」
「そうですね」
「私は、こんな月を見たことがありません」
「・・・・・・」
「だから月に願いをかけました」
雲が月を隠し、辺りを一瞬暗闇に包む。
しかし本当にそれは一瞬のことで、直ぐに雲は晴れて
銀色の光が辺りと二人を包み込む。
「・・・・・・嬉しかった」
「・・・っ!」
「嬉しかったの・・・。本当に、願いが叶って」
「さく・・・」
「もう寝ますね」
手を伸ばしかけた弁慶に「おやすみなさい」と一言告げると
咲弥は庭から自分の与えられた部屋の中へ入っていく。
庭に残されたのは、弁慶のみ。
その姿を月だけが照らしていた。
――パタン―――
襖を閉めて、頬に流れる涙
それは悲しみの涙か
それとも・・・・・・