微笑む彼は、どこか一線を引いているように思えて仕方なかった、
同時に心に痛みが走ったことに気がついた。
望美ちゃんが買い物へと出かけてしばらくしてから
扉が開き、そちらへ視線を向けると
彼が一瞬驚いた様子でこちらを見ていることに気がついた。
「おかえりなさい」
「・・・・望美さんは?」
視線をそらされ、訪ねられ答えると
そうですか。といって自分の部屋へ戻る彼の姿に
きゅっと唇をかみ締めた。
それは、ここへ来たことに対する戸惑いと
会えたことに対する嬉しさ。
「・・・・バカみたい・・・」
一人になり、ぽつりとつぶやく。
彼は会いたいと思ってなかったのかもしれない。
むしろ一緒になって一年。
まだまだ、二人で幸せな生活をしたかったのかもしれない。
それを望美ちゃんの行為に甘えて、リズの優しさに甘えて
ここに来てしまった。
「・・・でも、会いたかったの・・・。人目でも・・」
この気持ちは封印するから。
ずっと胸にしまうから。
望美ちゃんの悲しい顔も、弁慶のつらそうな顔も見たくないから。
「・・・今までだってできたのだから」
部屋の中に入り込む風の中に
彼の匂いを感じる。
廊下を歩く音が聞こえる。
目を閉じて、襖が開くと同時に弁慶に笑顔を見せる。
私の見せる笑顔に、あの時と変らない笑顔を私に見せて
彼は告げた。
「ようこそ、我が家へ」