三日月のパズル 神を敬うもの(4) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「どうぞ・・・お入りください」



奥に通されると左右を若い僧侶が並び、その中心には年老いた僧侶が座っている
恐らくこの寺院の上に立つものであろう。
座っている三人の中でも一番年老いた僧侶が口を開いた。


「これは、これは、『三蔵法師様』このような古寺に
ようこそ、お越しくださいました」


「歓迎痛み入る」


感情も乏しい言い方での返答に咲弥は
心の中でくすりと笑い
視線だけであたりを見渡す。
この世界が混沌としているのに。
この寺院は何も武器など無いのだ。



何しろ緊張感がまるで感じられない



(桃源郷・・・・・それは名ばかりかもしれない
それを、気がつきもしない彼らは何を思うのかな?)


隣では八戒に悟空がひそひそと何かを尋ねていた。


「なあ?三蔵ってそんなに偉い人なのか?」


「というより、『三蔵』の称号の力でしょうね
・・・・この世界には【天地開元】と呼ばれる経文が五つ存在するんです」


「その経文の守り人と称されるのが
『三蔵』の名を持つもの
仏教では最高僧に値する名前なのよ」


八戒の言葉に付け加えるように咲弥が答える


「なんで、あんな、神も仏も無いような
生臭坊主が『三蔵』なんだ?」


「そこまでは、ちょっと・・・」


八戒も悟浄の言葉に首をかしげ質問にこたえることができない


「『三蔵』の称号を受け継ぐものそれはね」


咲弥が言葉を開きかけた時
僧侶の声が重なる


「実は光明三蔵法師様も十数年前に、
この寺に立ち寄りくださったのですよ」


話し始める僧侶に咲弥は、さっと顔色をかえる


「咲弥?」


悟空が名前を呼ぶが返事はない。


「光明様の端正で荘厳なお姿が今でも目に焼きついております
玄奘様も本当によく似てておい・・・」



「三蔵様」



言葉をさえぎり三蔵に頭を下げる咲弥に
周りにいた僧侶からざわめきが起きた。


「おい」


「申し訳ありません。三蔵様・・・・しかし
三蔵様もお体がかなりお疲れだと思い
ぶしつけながら声をかけました
僧正様方も、三蔵様にお会いできて
お話をうかがいたいとお思いでしょうが
なにぶん難儀な道を三蔵様は登ってお疲れでございます
三蔵様を休ませたいのですが・・・・」


「おい!」


「三蔵様だけでもよろしいのです。我々は三蔵様にお使えする身
僧正様なにとぞ・・・・」


深く一礼する咲弥に三蔵は声を荒げるが
咲弥が僧正に向かって頭を下げている


「咲弥・・・・・」


悟空は悲しそうに声で咲弥の名を呼んだ。
他人行儀なその言い方
さっきまでの包み込むような感覚が無く
どこか遠くへ行くようなそんな感覚にとらわれる・


「こちらも失礼しました。三蔵様がお疲れなのに・・・
本来なら、女人は禁制で、従者もお泊めはいたしませんが
今回は、三蔵様に免じてご一緒でもかまいません・・・

三蔵様の慈悲だということをお忘れなきよう
どうぞこちらへ」


「温かいお言葉感謝いたします」


通される別室に三蔵は咲弥をにらみつけながら
歩いていく


「相当怒ってんなありゃ」


「そうでしょう、ね。咲弥」


「咲弥・・・」


「大丈夫、どこにも行かないからね」


さっきまでも空気が嘘のように取り払われていて
悟空はすぐに咲弥の腕にしがみつく。


「甘える?悟空くん」


「ち、違う!」


「いいね~お子様は・・・」


「まあ、まあ、」


慌てた悟空をからかうかのような悟浄に八戒がなだめる


「一番咲弥さんがなだめなければいけないのは
先に行った人なんですから」


「違いない」


きっと部屋に入れば怒り狂った三蔵が咲弥に詰め寄るだろう
それを考えながら八戒と悟浄は遠くへ歩いている悟空と
その悟空に笑顔で答える咲弥の後を追った。