「一晩の宿をお借りしましょうか」
八戒の声に三蔵は意識を戻す
目の前には立派といわれるであろう寺院が聳え建っている。
「けっ!ごたいそーな寺だな。おい」
悟浄は心底嫌そうな顔を見せかなり棘のある言葉を吐き捨て寺院を眺める
咲弥は、すっと目を細め見つめる。
それは一瞬のことで、誰にも気付かれることは無い
もちろん、隣にいた三蔵にも気が疲れることは無かった。
「すみませーん」
八戒が声を寺院の門の前にたち声をかける
しばらくの沈黙の後、ゆっくりと寺院の門が開かれると
一人の若い寺のものが顔を出す。
しかし、あまり歓迎しているとは思えないほどのよい顔はしていない
「僧侶が慈しみ深いのは昔の話か・・・」
「咲弥ちゃん・・・・・」
「気にしないでください」
近くに来ていた悟浄は肩をすくめた。
今の言葉は明らかに門を開けた僧侶にも聞こえたはずだ。
眉間に皺がよっているのが遠くからでも見えた。
「・・・・なにか用か?」
「我々は旅のものですが、今夜だけでも泊めていただけませんでしょうか?」
「ここは、」
「神聖な場所ゆえ、素性を知れぬものを招き入れるわけには行かない」
「「「「咲弥!?」」」」
「なっ!」
僧侶の言葉をかき消すかのように言った咲弥に
ぎょっとした顔で四人は名前を呼び
僧侶も口を開いたままだ。
「確かに、神聖な場所は清浄なるものの場所
貴方はそれに当てはまるのでしょうか?」
「ふ、ふざけるな!なんの権利があってお前のようなものに
そこまで言われる覚えがある!!」
「・・・おい」
かっと顔を紅くし怒りをあらわにする僧侶の言葉
それをなんとも思わないのかそれ以上何も言わない咲弥に
三蔵は少しあきれた口調で言葉を開く。
「なあ~オレ腹減ったよ。三蔵」
悟空が何気ない一言
一行ではいつもの台詞
しかし、僧侶にはそれではすまなかった
発せられた名前に、思わず三蔵を見つめる。
「・・・・・まさか。『玄奘三蔵法師』」
騒ぎを聞きつけたほかの僧侶も
先にいた僧侶の言葉に慌てて門の外にいる男を見つめる
「・・・たしかに・・・あの肩にかけている天地開元経文・・・
額のチャクラ・・・神の座に値するもの・・・」
「し、失礼いたしました!!」
「へ?」
突然開かれた門に悟空は理解できないまま頭をかしげる。
「本当に大変だわ。三蔵法師様は」
「テメェ・・・・・」
「とにかく、開いたようですし、入りましょうか」
「これだからオレは坊主が嫌いなんだよ!」
開いた門を見ながら悟浄が忌々しく言葉をはき捨てる。
「へー、初耳」
棒読みにも聞こえる三蔵の返答に咲弥は噴出し
声を出して笑い出す
「咲弥?」
「おもしろい。本当に・・・・最高よ・・・・・」
「・・・・チッ!」
不思議がる悟空にその意味が理解した三蔵は舌打ちしながら
門をくぐり寺院の中へ入っていく。
その後を続くかのように残りの四人も寺院へ入っていった。