三日月のパズル 茄陳の町編(1)  | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

三蔵一行が西の天竺へ向かうこととなったときと同じく
茄陳(コーチン)の町に一人の女が訪れていた。

「あの・・・?」

少女は全身黒の服を身に纏い、白いコートを羽織っている女に声をかける。
肩までかかった茶色の髪、
白乳色の肌、赤くふっくらとした唇。
通った鼻筋。
顔立ちの整った女は呼び止められた少女へ振り向く。


「すみません。どこか止まれる場所は無いでしょうか?」


高くも低くも無い凛とした声色に少女は
おずおずと言葉をつなげた。


「それなら・・・」


*********


ブロロロ・・・・・・・

この世界では珍しい鉄の乗り物に乗って西へ向かっている四人の者達。


「悟浄!席変われよっ!」


後ろにいた悟空は、ずい!と前のめりに助手席に座っている悟浄へ叫ぶ。
その声に気にもせず助手席でタバコを吹かしている悟浄。


「お前が前に座ると、煙たくてしょーがねーだろ!」


「ああ、悪ィな。後ろにお子様乗ってんの忘れてたぜ」


「んだと!!」


小馬鹿にした言い方の悟浄に悟空は怒りをあらわにして叫ぶ。
前と後ろでぎゃあ、ぎゃあと叫ぶ二人に
三蔵は額を右手で覆いガチャリと、銃を二人に向けた。


「・・・・・いい加減にしろよ。なんなら降りて走るか?」


「「スミマセン」」


「あははは。まあ、まあ、もうすぐ街が見えるハズです
久々に屋根のある所で眠れそうですねェ」


ハンドルを握りながら、我関せずと決め込んでいるのか、八戒が
さわやかな笑顔で三人に話し始める。
その町でこれからの四人の運命を変える出会いがあることを知らずに・・・。


「ふぇ~やっと着いたか」


「なぁ~三蔵。腹減った」


茄陳の町へ到着した一行。
悟浄と悟空は、街をきょろりと見渡している。


「お前等・・・」


「まー、まー、とにかく先に宿を」


「このアマ!あやまれっつってんだろ!」


八戒の言葉をかき消すかのように聞こえた声
そちらへ視線を向けると柄の悪そうな男たちが
少女を囲んでいるのが見える。


「おい・・・くれぐれも、目立つ行動はするなよ」


「三蔵、もういませんよ」


タバコに火をつけて話した三蔵に八戒がのほほんとした様子で答える。


「そっちが勝手にぶつかってきたんでしょ!?」


「ああ?」


「そういえば、お前のところで泊まっている姉ちゃんに
借りがあったなぁ?」


「なんですか・・・」


「あの姉ちゃんに」


カチャリ


「私になんですか?」


「っ!お前!」


「咲弥さん!」


「帰りが遅いと思ったら朋茗(ほうめい)」


明茗と呼ばれた少女は男に銃口を向けている女の名前を呼びながら
女の後ろに隠れる。
言葉を発しない男たちに、にやりを笑みを浮かべ


「私に用があるなら私に直接言いに来なさい」


「このアマ!」


ガウン!


「うわぁぁああ!!」


「い!痛て~よ」


咲弥と呼ばれた女の銃が男の右肩を撃ちぬく。
それにはさすがに朋茗も驚きのあまり声が出せない。


「痛いのは当たり前、あの時言ったでしょ?
【次は無い】って」


痛みのあまりのたうち回っている男を
見下ろす咲弥の瞳は温かみが無く冷酷さの色を強くしている。
痛みで苦しんでいる男を近くで一緒にいた男が抱きかかえる
残りの男は咲弥の背後に回り持っていたナイフを振りかざした。


「ふざけやがって!」


振り向き、とっさに朋茗を抱きしめる


ドコ!!


光を背に立っている男がナイフを持っていた男を蹴り飛ばし
蹴り飛ばされた男は地面へ顔を打ちつける。


「この辺に、宿屋ねえか?宿屋」


紅い髪の男はくわえタバコをしながら朋芳と咲弥に尋ねる
咲弥は抱きしめていた朋茗を離し、
かぶっていた帽子を深くかぶりなおす。


「は?・・・あの・・」


呆けている朋茗は言葉を出しかねているようで
その様子を咲弥はどこか他人事のように見ていた。
恐らく、この場は大丈夫だろう。
周りのものがこの考えを聞いていたらあきれたことだろう。
案の定、男たちの意識は咲弥から、突然現れた男へ向けられている
男の仲間が紅い髪の男にナイフをむけたそのとき


「ビンゴ!」


隣にいた小さめな少年がナイフで攻撃を仕掛けた男を殴り倒し
人差し指を立てて、にやりと不適な笑みを見せる。


「注目は浴びたくないから、私は先に帰ります」


咲弥の言葉は誰にも聞こえることは無い
すでに喧騒は自分の後ろから聞こえるのだから。
しかし
咲弥はふと思った。
鉄の塊、あれは恐らく自動車だ。
ここでは珍しい乗り物。
それに乗っていた人物。
太陽の光に反射して光る金色の髪の男。
モノクルを右目にかけている新緑の瞳の男
赤い髪と深紅の瞳が印象的な男
そして、金色の強い瞳を持った少年
あの四人を見た瞬間ここがどこだか瞬時に理解した。


「桃源郷・・・・ってワケ?
しかも・・・・・ここは     」


再び振り向いたときには喧騒は落ち着いたのか
あたりは穏やかな空気が流れていた。


「会うのか、怖いような怖くないような」


咲弥はすでにいなくなっている場所を見つめ空を見上げた






「ねえ・・・・帰れるの?私は・・・・・貴方のところへ」