「さよなら」
聞こえた声に動きを全て止めた
例えば君がいなくなったら
「珠洲!!」
思わず手の伸ばし彼女の名前を叫んでしまう
しかし、目の前に広がるのは見慣れた自分の部屋の天井
「夢か・・・」
ゆっくりと身体を起こし大きく深呼吸をしてしまう
汗で身に着けているものがぐっしょりと濡れている
あの戦いからすでに何ヶ月か経過してる
この村も殺伐とした空気が一変穏やかな空気に包まれているというのに
それでも、時折夢に出てくるあの時の戦い
傷つき倒れていく守護者達
身動きが出来ない僕達を悲しそうに見つめ
自分の身を捧げる珠洲の姿
涙で顔を濡らし
僕に触れるだけの小さな口付けを落とし
真緒の元へ行く君
名を呼ぶ僕に振り返り告げる
「さよなら」と
「夢でも、聞きたくない言葉だ」
******
「亮司さん」
いつもと同じ昼休み
珠洲は嬉しそうに図書室へ入り、窓の外を眺めている亮司に声をかける
しかし、彼からの返事はない
それどころか、まるで自分がここへ来ている事すら気がついていないようだ
「あれ?亮司さんどうしたんだ?」
少し遅れて覗き込んで訪ねる晶と陸に
珠洲も首をかしげる
時折亮司はこうして一人で物思いにふけることが多い
一度聞いてみたが、言いたくないのかごまかされ
あれから聞くことが出来ないでいたのだ
「お前、亮司さんに何も聞いてないのか?」
「だって・・・。言いたいないことを無理に聞くなんて」
「それが、恋人っていえるのか?」
いつの間にか晶との会話に入ってきた克彦の言葉に
戸惑いを隠しきれない
「・・・姉さん」
「大丈夫だから」
まるで自分に言い聞かせているかのように告げる
珠洲の姿に、陸も何も言わず黙る
克彦も何も言わず黙って亮司のところへ歩み寄る
「天野さん」
「あ、ああ・・。ごめん、もうお昼なのか」
肩を叩いた克彦の呼びかけに、少々驚きながらも
いつもと変らない笑顔で他メンバーを見て座るように促す
「どうしたの?みんな」
「・・・別になんでもないですよ」
晶は亮司の言葉に小さくため息をつきながら席に着く
「あの・・亮司さん」
「なに?」
「・・・・」
「珠洲?」
「き、今日のお弁当は、気に入ってくれるといいんですけど」
慌てて、持ってきたお弁当の袋を広げながら
珠洲は言いたかった言葉を飲み込んだ
******
その日の夕方
いつもの帰り道、何気ない会話をして帰るのだが
今日は少し違っていた
「今日は、どうしたの?珠洲」
「別に何もないですよ」
そうして笑って見せる珠洲の姿に亮司は眉を寄せる
「珠洲・・・。そうして一人で何も抱えないでほしいって
お願いしていただろう?
どうしたの?今日は本当に変だよ」
亮司の言葉に、珠洲はぴたりと足を止めた
「珠洲・・どうし・・」
「亮司さんだって・・・」
俯きながら亮司の言葉を遮り
持ってきたかばんをきつく握り締めて言葉をさげりると
勢いよく顔を上げる
「っ・・・」
「一人で抱えないでって、亮司さんは?
最近ずっと何かを悩んでいるみたいで
聞いてみても、教えてくれないし
私は、私はっ!亮司さんの何なんですか!?
私わからない!」
涙を流し叫ぶ珠洲に一瞬言葉をなくす
これ以上は耐えられないのか
珠洲は駆け出す
しかし、それを亮司が引き止める
「珠洲・・・。まっ・・」
「離して!」
掴まれた腕を振りほどき、きつく亮司を見る珠洲
「さよなら・・・」
告げられた言葉に、動きも機能も全て止まってしまった
******
「何をしているんだか」
後ろから歩いていた克彦は呆れた物言いで亮司を見る
しかし、珠洲の告げた言葉に動きを止めていた亮司はぎこちなく
克彦のほうへ視線を向けるだけ
「あんた、最近、ずっと何かを抱えていただろう?
それをアイツは、気になっていただけだ
しかも、恋人であるあんたは何も言わない
それどころか、自分に隠し事はするなと、言う
どんなに聞き分けのいい女でも我慢の限界はあるってことだ」
「それは・・・」
「アンタはアイツの何を知っているって?
幼い頃から何でも知っているって?
本当かな?
お前達は、ようやく隣にたったんだろう?
小さい頃は、誰でも分かるんだろう?でも
恋人としては?アンタはアイツの何を知っているって?
そんなんじゃ、いつか誰かに奪われるさ」
「っ!!」
その言葉に拳を握り締めた
「亮司さん、俺達はあいつが幸せに微笑むならいいんだ
でも珠洲が本当に幸せに笑うのは、亮司さんのとなりだよ」
晶が、腕を組みながら告げる
「姉さんをお願いします」
「ありがとう」
陸の言葉に、珠洲のあとを追う
「いいとこあるじゃん」
「・・・ふん」
三人は亮司の後姿を見送った