マチエール

ばかにしても優しい男わたしより丸く小さき尻に足を置く   立花開

花の樹の根方に佇む小さき石ただそれだけの蓮月尼の墓    田村ふみ乃

卵三つカカンと割ってオムライス自分の機嫌は自分で直す   小原和

女子のみにアイロンかける赤白帽おんなは白と決まっておれば  浅井美也子

「新潟 アイドル 暴行」加湿器に手のひら濡らしじっとしており   佐巻理奈子


作品Ⅱ

地の人が「儲けもん」と言ふ青空に力をもらふ洗濯をせむ   岡野哉子

なすな恋わがなかぞらに訪ひくるる月の裏さへ知らず恋ひしか   入江曜子

「元気か」と賀状に書けば「元気だよ」一年かけて友の返信   高木啓

白々と痩せたる細き手を載せし腹部ばかりが異様に膨る     谷蕗子

二十五名揃ひて記念の写真とる誰かが動きてとまどふシャッター  辻玲子

息子より突然スマホを贈られて「ライン覚えて」だなんてアホな  棚橋まち子


作品Ⅲ

誠意って書いておカネと読む人も読まれる私も同じ人属    藤田美香

相談はたぶん口実進路よりわれの暮らしを女生徒は問う    滝本賢太郎

まだ眠り足りないような薄曇りペットボトルをすすいで棄てる  稲葉千咲

先制の部屋に子どもら集まりてパンというもの食べた日遥か   横山利子

未熟児とまざまざ残る母子手帳初子のわれを母が記せり     岩岡正子

訪れる人の稀ならむ村社小さき餅のひび割れてをり       木谷夏樹

九十の人の賀状の添書に「頂くは嬉し」と念を押したり     冨沢昌晴

ぐい呑みに秋灯ひとつづつ容れてすこし眠たいまだ話したい   伊藤利恵

(む)