畚担ぎ妻と均しし田を埋めて法人施設の杭打たれゆく 佐藤昌三
蓮の花咲き終えたとき剥き出しの種子の黒さを恐ごわと見る 池田郁里
濾過されたように煌めく秋の陽につつまれ母は居眠りしおり 杉本聡子
老犬の寝息くうくう編み込んでふうわり白き冬支度する 立石玲子
この人と一生会うことないだろうフォロワーぺんちゃんのアイコンと文字 高木啓
鉛筆はこんなにも尖るそこなわれ尖るわたしはどうだっただろう 佐巻理奈子
美しき阿修羅の像も戦いの神とし聞けば人に近きか 林敬子
フレスコ画に見し面差しと仰ぎたりローマの女性消防士たち 智月テレサ
巣立ちたる野の鳥の巣に帰りくる一羽もなくて月昇りきぬ 入江曜子
Amazonより届く歌集は帯破(や)れて変色したる贈呈紙あり 大久保知代子
白髪(しろかみ)も見慣れてくればそれなりに似合うといわれピンクのTシャツ 菊池和子
西瓜喰む人はそれぞれ口を開けひとさまざまの皮残しゆく 大橋龍有
秋の夜の庭を彩る虫の音の首席奏者は時に替はらむ 浜元さざ波
黒光るオニヤンマ直ぐに飛び去るも胸もとややにざはつきてゐる 石井みつほ
種のせい天候のせいひとつきり芽が出始めた大切なかぼちゃ 松宮正子
意味もなくかなり短く髪を切りまわりの人を不安にさせる 山田ゆき
極楽鳥の求愛ダンス真似てゐし野鳥ファンの夫よまた会ひたいよ 塙宣子
「年寄は高熱なんて出ません」と絵文字の多い子よりのメール 棚橋まち子
コンビニのCM観るもこの島にコンビニはなし夕餉の鮨屋 内田剛志
騒音と言わるるままに鐘撞くを止めたる寺の宵は淋しき 奥寺正晴
悔しくて腹の底から声を出し偽息子叱る詐欺の電話に 新藤雅章
台風が来たらみんなで手を繋ぎ置いていかれぬやうにしなきやね 塚田千束
渋谷から街を眺める個の壊れピクセル化した絵画のような 久納美輝
みのうちにちからを吸いとる瀑布あり眠たきとき水涸れたる匂い 狩峰隆希
午後の陽はぬるく静かに照りて居り娘の墓に誰か参りし 末永恵子