打つ雨のやみて音なき夜半ならむ言葉を探す辞書の重たき 松本ミエ
曇る日の曇れるままに暮れゆきて何か忘れしごとくにさびし 秋元夏子
的のなき嫌がらせらし元センセイ闇に水路の水を落としぬ 久下沼滿男
どこの国の総理かと質す声のあり 長崎 獅子の如く湧く雲 森暁香
影にまで老躯と知れぬそれなりの背筋伸ばさむ杖はつくとも 貴志光代
ゆかた解き作り替へたる家庭着の木綿は涼し風を通して 重本圭子
八月の雨降り止まずアンパンマンの合羽を孫に被せる今朝も 広瀬加奈子
あなたには優しくしたし遠慮なく傷つけてゐし日日を思へば 鈴木尚美
病室の空に止まつて鳴く熊蝉どんなに鳴いても君は死ぬのだ 香川芙紗子
大口を開けたる形に貯金箱壊れて小銭を入れ易くなる 松山久恵
小松菜に紛れていたる蝶ふたつ畑に白き炎となれり 袖山昌子
雨の夜を灯りてやさし向う岸の合歓の花ばな淡くかがやく 稲村光子
寺の鐘おごそかに鳴る朝六時何処にいても目をつむり聞く 田上郁子
八十年過ぎし今日慰霊金支給五万円の五回払いで 小野昌一郎
目の覚めしわが耳元で「しまつた」とほざくな若き第一助手よ 大葉清隆