洗濯物さきほど干していま見れば妻が直してただしく下がる 橋本喜典
海を見てはぐくまれたる岬馬(みさきうま)通りすがりのわれに寄りくる 篠 弘
交尾のこと結婚と言うは間違いぞ 夏休みこども科学相談 小林峯夫
乱暴に抱えて走れば笑うゆえ三度も孫を抱えて疲れず 大下一真
子の齢と同い齢なる躑躅あればいかに可愛ゆく水は遣りけむ 島田修三
ユニクロのTシャツうしろまへに着て何事もなし夕陽が沈む 柳宣弘
ご子息は独身ですかといふ電話去年も十年前にもありき 中根誠
柿、蜻蛉(あきつ)朱を深めゆくこの秋の「喜怒」を思ひて「哀楽」忘る 柴田典昭
直線のゆきかう東京みおろして人の目あまた寂しむごとし 今井恵子
麻薬なる痛み止めいくつ飲み合わせ四十一度をうつしみは越ゆ 高島光
猫多きマンションの朝登校に「モモにゃん」と呼ぶ少女の声す 伊東ふみ子
兄弟のなかより選ばれ墜とされしつばめ光れり淡き灯の下 曽我玲子
どの骨がお父さんのものか判らないみんなお父さんと思って拾うと 佐藤鳥見子
花びらも散ればゴミのようなもの呼んでも戻らぬ人はもどらず すずきいさむ
わたくしは何れ祖霊となるでせう影絵のやうなひとりの夕餉 大野景子
原爆忌敗戦忌過ぎゴジラめく雲立ちあがる午後の西空 大林明彦
プリーツ加工のような記憶が語られて暑い八月の日が過ぎてゆく 伊東恵美子
浅草の路地に迷いぬ今わたし何処に居るのとスマホに問へり 齊藤愛子