がんばつてひらくにあらず白梅はすこし力を緩めて咲きぬ   森暁香

 

 

マフラーを襟巻きと言いて笑われし友を慰め春を待つべし   矢澤保

 

 

わが顔の映る手鏡まん中に親指の指紋うず巻いており   熊谷郁子

 

 

母逝きし齢を疾うに越すわれかつましき生活(くらし)の昭和もはるか   住矢節子

 

 

寂しきまで自立してゆく孫思へば夜明けを遠く山鳩の鳴く   松山久恵

 

 

きらきらと春の光が満ちくれば猫が飛び出しわれも飛び出す   福井詳子

 

 

海岸の深夜作業は寒からむワイヤーを掛ける人々の手は   広野加奈子

 

 

おそろいのベストを着たる犬ひきて少女は走る菜の花の土手   袖山昌子

 

 

せせらぎの中に悲しみ融けゆけよ川辺に夫はハーモニカ吹く   門間徹子

 

 

菜の花と一輌列車ふるさとは時の止まりし春のまんなか   宇佐美玲子

 

 

ボランティアさえ自己ファーストで生きて来て何かさみしき黄の菜の花は   佐伯悦子

 

 

うたたねの淡きに見たる弘前城老いの祈りの花美しき   竹内類子

 

 

空を飛ぶ燕、地上を走る猫知恵くらべして仲よくしてね   村上らん子

 

 

人に会う事なき午後の坂道か切株二つを目指して歩く   小澤光子

 

 

腰弱り脚も弱りてまるまりし母の背中(そびら)を軽くなでたり   青木春枝

 

 

白鳥の舞ひたちゆきて飛影なくぽつかりあきし青空のぞく   阿部清

 

 

買ってまで食べたくないから植えようと西瓜の位置を夫は耕す   牧野和枝

 

 

風にふるふなづな花むら妹は衰えゆくを悲しといはず   秋元夏子