あぢさゐは淡き青磁の壺なれば雨後の光を充たして静か   加藤孝男

 

 

あじさいの蒼きあたまに雨がふる六月に死んだ生徒はふたり   広坂早苗

 

 

白蓮の吐息は空に抜けてゆくやわれに来るべき瀬戸際の息   市川正子

 

 

春のひかり拾いゆくなり畦道の野あざみ風にすこし傾げて   滝田倫子

 

 

春日ざし注げる梨の花ばなに人口受粉さすと人ら勤しむ   寺田陽子

 

 

ミュシャへの想いに求む星空の青のかけらのこのペンダント   岡本弘子

 

 

のぼり来て天守より見る紺碧の相模の海に風波の立つ   齊藤貴美子

 

 

大川のほとりに古りし自転車をとめてくゆらす翁の紫煙   小野昌子

 

 

お焼香なんか来なくていいのですただ衆院を通過させんで   麻生由美

 

 

春の野の地蔵のこゑのかくありや昼の電車にをさな児笑ふ   久我久美子

 

 

碇泊の船が灯りて海上に街があるかと思う夜の更け   松浦美智子

 

 

花に浮かれ花に酔いたる島国に降る雨の昏き幻影やまず   高橋啓介

 

 

両側より萩しだれ咲くしろたへの階を一段一段のぼる   庄野史子

 

 

芽吹き待つ木々のはざまに淡紅の花をひらける杏まぶしき   西川直子

 

 

ちつぽけなくぼみによろけわが影の伸びちぢみする夜の舗道に   升田隆雄

 

 

重ね着に花見をしのぎ薄らなるあをの奥から春が見えくる   柴田仁美

 

 

早春の日差しあまねき奥出雲の仁多の田園明るみてくる   中道善幸

 

 

仰ぎ観る老樹の桜陶酔のわが額に散る花のひとひら   小栗三江子

 

 

闇を割る稲光あり唐突に妬みいっぽん浮きて掻き消ゆ   吾孫子隆