植ゑし場所忘れてゐしがクロツカスここですここです 黄の花ひらく   秋元夏子

 

 

何ゆゑに捨てられたるや包まれて紅きリボンに結ばれし花   門間徹子

 

 

消え失せる浪江の里を映しをり握れば逃ぐる砂の手触り   久下沼滿男

 

 

解決のひとつ道すぢ示したれば額のあたりほおつと明るむ   森暁香

 

 

パソコンの回線を弊社に替へるなら#/” * ;@何のことやら   伊藤宗弘

 

 

庭先の猫の交尾を見てゐたるひとりの吾を笑ふわれをり   袖山昌子

 

 

三センチ程の鉛筆物言わず相撲の星取りつぎつぎ潰す   熊谷郁子

 

 

「人生」と語る側から取り落す楊枝で食べる林檎のひと切れ   矢澤保

 

 

どうしても眠れぬ夜は音消して見入るテレビのモンゴル平原   牧野和枝

 

 

宵っ張りを諭すごとくにホー寝(い)ねよホーホー寝ねよと鳴き声がくる   野田秀子

 

 

雪道を誰が歩みしか足跡にわが足重ねゆく朝の坂   稲村光子

 

 

当り前に座り立つこと歩くこと訓練中なり外は大雨   香川芙紗子

 

 

さざ波の寄する浜辺にわれひとり小船にゆれゐし夢なつかしき   竹内類子

 

 

竿秤にて甘藷一キロはかるとき手は覚えていて一度にてすむ   里見絹枝

 

 

六年生の先生の顔浮かびくる「みかんの花咲く丘」を歌えば   塙紀子

 

 

ユーチューブの春の小川をききながらお彼岸明けに降る雪見てゐる   藤森悦子

 

 

銭湯が閉店らしいの噂出てぽつりぽつりと桃の花咲く   佐伯悦子

 

 

擦れちがふ幼稚園児がわれの掌にひとりが触れれば皆ふれていく   横川操

 

 

福寿草一輪のみの静けさにゆうるり続くきさらぎの昼   宇佐美玲子