雪解けに「ウライウライ」とこだまする駐車場への誘導聞こゆ 広沢流
間違いの結果としての泥酔を咎める人もなくて 満月 宮田知子
「一人でもチェコに行くのはなぜですか」景色と言うと皆ほっとする 山川藍
平井堅かなしく歌う夕まぐれ頭なでるように茶碗をあらう 浅井美也子
モミの木の怒り狂って迫り来るような洗車機のブラシのおばけ 荒川梢
春の夜にカーテンを引く狭き部屋なに守ろうと膝を抱える 伊藤いずみ
俺の目は野生だろうかエクレアの在庫をすべて籠に入れたり 小原和
妻のいぬ卓に太郎は鳩の歌一拍遅れる手拍子打ちて 大谷宥秀
父が切り忘れし電気ひざかけの目盛り4と5の間のぬくみ 加藤陽平
北山様、北山様と呼ぶ声に痴れてゆくなりChinzanso Tokyo 北山あさひ
正義感ふりかざしていたあの頃の私はおらず水仙香る 木部海帆
鍵盤の描かれし日傘 戸口にて昨夏吸いたる音を奏でる 小瀬川喜井
旧かなのような告白に戸惑いし夢より醒めてしばし動けず 後藤由紀恵
要塞のごと立つ水屋箪笥から祖母はいつでも蕎麦ぼうろを出す 佐藤華保理
思ひ出は人を弱くもするけれど(雨だ)たまには浸(ひた)つてもいい 染野太朗
膜ありて春の内側見たくなりつぷりと裂けば蝋梅咲きぬ 立花開
落花せるひと処より湧きあがる陰口ビニールシートがめくれて 田村ふみ乃
おひとりで着たはりますのん、と雛に見られつつ襟芯いれる 富田睦子