ただ碧き空は余りてわれの子でなき児と夫でなき人といる   田村ふみ乃

 

 

神経のひとつを起こし観ておれどCMの間にどうでもよくなり   富田睦子

 

 

早朝に病院へ行く足取りはいんふるえんざいんふるえんざ   広沢流

 

 

待っている誰かがいると仮定する例えば靄がかかる森の奥に   宮田知子

 

 

ノーリップクリームなのと何回も自分のことを言う わたしもよ   山川藍

 

 

親友とよぶ人おらず夫の胸しずかに耳をおしあてている   浅井美也子

 

 

幸せは歩いて来ないのに逃げる ポットに踊る茶葉の時間よ   荒川梢

 

 

鬼役を解かれし男と立春に人事の内定文書を作る   伊藤いずみ

 

 

修理終え戻りて来たる萬年筆もう一度見る椅子に座りて   大谷宥秀

 

 

絞りきり一日一日を終えてゆく一生なんて生きられるかよ   小原和

 

 

キッチンよりながむれば子を亡くしたる夫婦のごとく父母は向かい合う   加藤陽平

 

 

わたくしはわたくしメラニアはメラニア二月おおかた不服に過ごす   北山あさひ

 

 

わたくしの器にひびは入りつつも割れないように日々使うのみ   木部海帆

 

 

トランプの唇大きく動きおり字幕によれば罵るところ   小島一記

 

 

手で強く握りたるところより腐る桃の種つねにまんなかにある   小瀬川喜井

 

 

わが部屋の太陽としてしばらくを冷蔵庫の上にデコポンありぬ   後藤由紀恵

 

 

抑うつのあなたが碇で海としてわたしがあるとか そんなわけない   佐藤華保理

 

 

バスの揺れをこころの揺れとおもふのを止めず寝てゐるきみの隣で   染野太朗

 

 

想像力持たぬ電柱抱き寄せる君といるより泣けるのはなぜ   立花開