しちぐわつの雨を湛ふる春楡のふかぶかといまきみを抱きたし   /染野太朗

 

管理職でもなく管理部門にいるわれが訳知り顔にいれるコーヒー  /佐藤華保理

 

子を産みて休職あるいは辞職せむといふ呪ひありけふも呪はる   /田口綾子

 

真実はときに遠くてあなたの死に気付けば蟬が一斉に鳴く      /立花開

 

脂身がレースのように透けていてビールは喉を喜ばせおり     /富田睦子

 

車は揺れ夢と知りつつ夢の中とりとめのない夏の日にいる    /宮田知子

 

友達の結婚式に行く前に殺すと書いたメモ紙捨てる       /山川藍

 

素因数分解までして君のこと慰めたのに割り勘なのね     /荒川梢

 

いつもそう大縄跳びの円周をうまく抜けれぬ星回り持ち     /伊藤いずみ

 

伊勢丹に光を浴びる関サバはわれの知らざる誇りなど見せ   /大谷宥秀

 

あの山が肺だとすればこの体はいずれ死にゆく血球だろう    /小原和

 

窓あけし吾の手柄をたたうるごと廊下のすだれがはためけるかも  /加藤陽平

 

目醒めれば素足がさむい雨の日をつらりつらりと国民でいる   /北山あさひ

 

いつのまにか蒙古斑のなくなりて水着の跡のみ白き子の尻   /木部海帆

 

母の名は魔法少女と同じ名で中二の娘は激しく嫌う       /倉田政美

 

中世の修道院に寝起きする祈りのための身体でありたし    /後藤由紀恵