目薬のまなこをそれつ詩のことばわが魂をかすりてゐたり     /加藤孝男

 

働きすぎだよねわたしと呟けばしずかにひらく地下鉄のドア    /広坂早苗

 

ムスダンを迎撃したか蛾一匹たたきおとしてひとつ灯に寄る   /市川正子

 

ふれたれば朝露こぼれあじさいに胸のあたりを濡らしてしまう   /滝田倫子

 

帰らぬか帰られざるか残る鴨ゆつたりと浮く沼のみぎわに    /寺田陽子

 

震度激しき画像は切らる鹿児島の川内原発なにを憚る     /島田裕子

 

おほかたは我慢料とふ貯へを崩しに雨の銀行へゆく      /麻生由美

 

手鏡をのぞくしぐさにスマートフォン出して青年は点景となる   /小野昌子

 

新緑の木々を渡れる夜の風『西行花伝』の頁を撫づる       /升田隆雄

 

日の当たる窓辺の席がよく似合ふ笑ひ上戸の女ともだち    /久我久美子

 

人ひとり潜れるほどの洞となり真夜のテレビは暗く静もる   /岡本弘子