真夜中に<心>と<こころ>を書き分けて詠めば詠むほど寂しいんだわ  北山あさひ


いつのまにか川のこちらに来ておりぬ悩みつつ午後の町を帰れば  加藤陽平


白葱にいっぱいいっぱい傷をつけ切り刻みゆく夜半にそうめん  木部海帆


夜が明ける前に帰宅をしなければ言いなりだらけの今日が終わらぬ  倉田政美


警官のいつも不在の交番に片付けてある空の寿司桶  小島一記


ああ今年も確かに降っている夏が 友の不倫の話に飽きる  小瀬川喜井


此岸から彼岸へわたる鳥たちにまじりて祖母の風切羽が見ゆ  後藤由紀恵


細く細く螺旋階段巻かるるを(でも会ひにゆく)スマホに撮りつ  染野太朗


冷蔵庫の中に野沢菜あることを信じてけふは帰りきたりぬ  田口綾子


夏の朝ぽかんと晴れて並べ干す傘の三本ふっくらひらく  富田睦子


その森を抜けたところで君に会いそれが森の全てと言える  宮田知子


友達の夫いちいち「バイトって、アルバイト?」って略さずに聞く  山川藍


マンションに巻きつく非常階段を下からめくってみてつむじ風  米倉歩


湿気るなと前髪を付き上げる風 きみの掌よりも柔くて 荒川梢


僕似から妻似に変わりましたとう嬰児の画像見せられている  伊東いずみ


仰向けの子の額より湯をかけるはつかに混じり子犬の匂い  大谷宥秀


サイドブレーキしたまま走る生まれたての朝日を浴びて瞳が痛い  小原和