二月集(作品Ⅲ)
からからと乾きゆく野にひつそりと盗人萩の種ふとりゆく 岡野哉子
不登校・貧困・いぢめ 子どもらの間(あひ)をゆきかふ立冬の風 森 暁香
草越しに赤錆びしレールほの見ゆる夜は光りて銀河へ伸びよ 大久保知代子
うす黒く泥に塗るる靴洗うガレキの中を巡りたる靴 松本いつ子
長雨にズボンの折り目は緩みゆく吾も少しく疲れて見えむ 奥寺正晴
みどりごを抱きつつ見ればもしろし風が木の葉を揺らすことさへ 秋元夏子
自由なるわれを羨しと今日も言う夫あるあなたに言われたくなし 菊池和子
ちちふさを食べ物と見るみどり児の健やかにのびる体重曲線 浅井美也子
管理機は石を蹴りあげわれの手を払いてうね間を爆走してゆく 小原守美子
退院し帰宅の義母の数時間惑いいるらし自分の家に 鈴木智子
調査書の記入に瑕疵あれ対応の電話は穏し社風しのばる 小嶋喜久代
秋葬る荼毘にも似たる落葉焚き消えて季語だけ残る可笑しさ 上野昭男
もこもこの肌着が届く娘から若い元気と言われた後に 原田勝子
何事も元を取らねば気が済まずそのために詠む闘病の歌 今井百合子
土砂払ふ人らはなべて齢つみ六十九歳のわれぞ若かる 久下沼滿男
朴の葉の落ち尽くすまで庭先は破船の溜りとなりて明けくる 中井溥子
賛成と語る生徒に安保法案の我の思いを言葉にできず 滑川恵美子
鳴くことのできぬうさぎは目で話す黒き瞳にわれを見上げて 杉本聡子
雨の日は訪いくる人もないと言う 媼はわれを招き入れたり 黒澤玉枝