マチエール


To.荒川さんのTの字いつまでも鉄槌のように佇んでいる  荒川 梢


本日は値幅制限ぎりぎりにパリの市民の命が高し  伊藤いずみ


湯に透けるわたしの魔羅を指さして笑う吾子なりべろべろばあ  大谷宥秀


カメムシを夜空に還すもう月の纏う空気が凛としている  小原和


ゴーヤーを食いし器に玉子豆腐載すれば線香花火のにおいす  加藤陽平


十一月の仕方のなさの中にいてこっくりと心窩へ落ちる白湯  北山あさひ


ちちははの言い合いの中少年はぬれた枯れ葉のにおいをさせる  木部海帆


気を抜けば父の余命を数えてる深夜一時のコインランドリー  倉田政美


吉祥寺バウシアターの入口にわれを待ちたる横顔ありき  後藤由紀恵


かえりきて手を洗う音のせわしさが君だ眠りのきりぎしに聞く  佐藤華保理


ああけふも吉岡太朗の発言が長引いてゐて笑つてしまふ  染野太朗


彼女たちは嘘を本当にしてしまう 泣きたかった 風にかき消されるなら  立花 開


ISとISSを間違えて間違えるころ灯る原子炉  富田睦子


ふと小石を拾って握っているうちに温んでくれば捨てがたくいる  宮田知子


一歳の男の子ならカネマツのバッグの中のポッキー投げる  山川 藍


爆死したジハーディ・ジョンの歯茎から飛び散る無数のジハーディ・ジョン  米倉 歩