マチエール


クリケット選手のように走りだす見通しのよき赤信号を          小島一記


さくらさくら秋の真中に突っ立って次の戦争の血を吸っている      染野太朗


むきだしの線路がホームに置いてありここに電車が来るとは恐ろし  加藤陽平


禅寺に蚊取り線香くゆりつつひとつの点として蠅は死す         富田睦子


秋の夜の深みに蓋をするように皓とかがやくスーパームーンは    後藤由紀恵


いつまでも熟さぬことを良しとする子の誕生日にもらいしメロン     木部海帆


考えたことが今まであったっけ目覚めたときは生まれた気持ち     山川藍


トランペットのA音だ 箱庭のような団地に雨がふりだす         佐藤華保理


世の中の同情、偏見 みどりいろのソーダをメロンと決めるは大人  小瀬川喜井


この土より動けぬ草らに身もだえをさせてごうごう風は吹き過ぐ    宮田知子


ひとしきり罵り終えたくちびるを細窓の窓にひたりと付ける       荒川梢


西井さんは確かにヘンだ、ヘンだけど 倉庫に薄暗がりを見に行く  北山あさひ


ファミレスが消えて更地に逆戻りどうせ今度はコンビニだろう     倉田政美


ふくざつな割り勘をするおみな四人見送りてのち席たつわれも    大谷宥秀


櫻散るせつな刹那という文字はどこか殺すという字に似ている    伊藤いずみ


燃え移れば良いのにいつも不愛想なきみの鎖骨に噛み付いてみる   小原和