作品Ⅱ(人集)


とおいとおい祖先の鳥が飛んでゆくヒトになる日は来るのだろうか    伊藤恵美子


薬など飲んだことはないという老薬局長きまり悪げに          西一村


「お前らは月10万の口か」にべもなく蛸焼きを売る露店の男      鈴木美佐子


光沢のドレスの裾をちらと見せ蔦の繁みに隠れる蜥蜴          相原ひろ子


ローソンの前に「おでん」の旗立ちて少し冷たい風にゆれいる      佐伯悦子


一日の太陽どっぷり吸い込みし南瓜切りとる夕暮の畑に         大山祐子


四人家族四人の使ふスマートフォン頭上に重し見えざる電波が      庄野史子


めくらねば女王陛下も闇のなか孫に譲れぬトランプゲーム        宇佐美玲子


明日には帰京する子と中空をさまよふゴーヤの蔓を見ており       袖山昌子


さみどりのシーツ選びぬわたくしの「寛解」の身の安らなるべく     田浦サチ子


朱の丸い一つ紋つけ自慢げに武家屋敷にいる黒き亀虫          菊池理恵子


「ただいま」と言いし自分に「おかえり」と声音を変えてひとり芝居す  金子芙美子


パソコンに安保法案可決後の記事を読みをり敬老の日に         青木春枝


憧れの人の名付けしとふわが名前父の供花にはけふ白槿         小出加津代


舟べりを手もて叩けば光り散る水面ちかくに鯛の寄りくる        齊藤愛子


手に握るゑのころ草を花といふ幼な男の子の思惟のゆたかさ       関まち子


ふうはりと孫娘二人訪ひきたりファウスト見せてと本棚探す       山口真澄


逝きしより十三年経ても先生と父を呼び呉るる教へ子の老女(ひと)は  前田紀子


蕎麦の花真盛りにして白き野のはたてに碧く越の海みゆ         辻玲子


帰国せる男孫は祖父(じじ)の部屋にゆく在らずなりしをまず確かむるか   西野玲子


どれもどれも皆終の花いろ淡く秋深む庭に下向いて咲く         松本ミエ


感情のトライアングル一片が淋しき音色たてる時あり          藤崎哲夫