2014年2月号
<マチエール>
陸に上がれば耳と鼻開く河馬となり雑踏のなか耳ひらきゆく 後藤由紀恵
特別に冷えると聞きし夜である海月のような吾子の指さき 富田睦子
おれ性欲強すぎるんだと呟いて生徒が真顔 二学期終わる 染野太朗
止めていたビデオを再生するように矢作川を渡り帰りぬ 佐藤華保理
ペテン師と言われようとも新しい漢字を五つ覚えてもらう 米倉歩
名ではなく一人称で語るとき子の階段は一段とばし 木部海帆
手ざわりとカラーで選びとる手帳中身があることは忘れたい 山川藍
足の爪明日こそ切らんと思いつつ足をのばして今宵は眠る 加藤陽平
大根を抱えることは違法かもシャネルのドアを押しつつ思う 小瀬川喜井
白く襞を畳みて我に寄せて来て砂を浚ってほどけゆく海 宮田知子
何一つ不自由も無く年末は生者に向けて年賀を送る 倉田政美
一向にこちらを見てはくれぬ犬わたしは幽霊なのかホントだ 小林樹沙
冬に入りて本の文字みな深く眠り春までは雪原の一冊 立花開
引き継ぎにダイブとあれば空色とねずみ色の鮮やかな(真っ暗) 荒川梢
おじさんとわたししかいないスーパーで割引された唐揚げを買う 小原和
さみしさがいっぱいあって花咲かすように手で割る冬のお豆腐 北山あさひ
<十四人集>
賜りしひとりの時間は風通し良くして影を休ませてやる 大野景子
そよ風と思っているらし寄り添いて母を歩かす霜月の朝 伊東恵美子
一つことが終われば次の仕事あり回り切れない暮らしが続く すずきいさむ
どうしても元気になれないモヤモヤに少し余計な買物をする 関本喜代子
卓袱台をかこんでワイワイ騒いでいた何もないけどすごく良かった 西一村
風吹けばかぜ方向に傾きてわが家を包む野焼きの煙 大山祐子
夫に告ぐ真夜のトイレに起きたなら風呂場の窓を閉めて下さい 鴨志田稚寿子