2013年11月号の作品①
作品Ⅰ
このいのち維持せむためとなにかしら言ひわけめきて冷房に住む 橋本喜典
甲虫のお腹のような裏側をさらして掃除機壁にもたるる 小林峯夫
怒る衆あれば喜ぶ者もある牽制球にランナー刺され 大下一真
味のなき鶏のから揚げ啖らふ夢の途中なりしが茫として醒む 島田修三
空を見て「いい按配だ」と老いが言ふいい按配のやうな気がする 柳宣宏
天(かみ)牛(きり)が無花果の幹を喰ひあらしし夏の終りのわが抗ガン剤 三浦槙子
「ふる里の訛」を今は聴く人なし上野駅頭を太股闊歩す 横山三樹
<まひる野集>
口中に銀の箔などつめらるるつめたき雨の後を夢みる 加藤孝男
黄色の太った南瓜がでんと座り九月を統べてゆくカレンダー 島田裕子
名付くるは女(おみな)なるべし猿滑(さるすべり)そのすべらかな肌をそねみて 広坂早苗
「新宿の特養千人待ち」の記事目玉のうらにしこりができた 市川正子
饒舌のさびしさ知るはひとのみか枝先燃ゆる紅さるすべり 竹谷ひろこ
蚊遣火が護りくれたる夜のほどろ煙絶えしを蚊に知らさるる 寺田陽子
川の面に光ためいる静けさをすこし壊して風わたりゆく 滝田倫子
まだ青き七(なな)竈(かまど)の実を見て立てりさびしき調停なし来し街に 小野昌子
わが妻に父は質問繰り返す「どこから来たの」「どこに帰るの」 岡本勝
夏胡瓜の茎はいのぼる蟻の列心あるやにひたすらなりき 斎川陽子
返し得ぬ負債のごとしそののちは藷食ひたしと思ふことなく 升田隆雄
黙祷の時間のありて眼閉づれば三半規管がわたしを転(ま)はす 麻生由美
眠ることを渇望しつつ寝返りを打てば転がる肢体のわれが 高橋啓介
大き荷とロングスカート禁じられエカテリーナの宮殿に入る 松浦美智子
地震あり特急電車の遅延あり書道展に来てあまた見残す 齊藤貴美子
息子より若き父もつアルバイター一日勤めたるのち現れず 中道善幸
この道は一年ぶりか白熊のやうな犬まだ繋がれてをり 柴田仁美
ブロックの塀に凭れてゐる少年ブロックは今父のごとしも 久我久美子
樫の木に行列を為す蟻どもは仰向く蝉に頓着の無し 小栗三江子
菜園の豆の葉にいる尺取虫棒につつけばしゃくとり怒る 岡部克彦
深まりてゆく秋なれば病葉(わくらば)は怒りに燃えて土となるらん 吾孫子隆
作品Ⅰ
このいのち維持せむためとなにかしら言ひわけめきて冷房に住む 橋本喜典
甲虫のお腹のような裏側をさらして掃除機壁にもたるる 小林峯夫
怒る衆あれば喜ぶ者もある牽制球にランナー刺され 大下一真
味のなき鶏のから揚げ啖らふ夢の途中なりしが茫として醒む 島田修三
空を見て「いい按配だ」と老いが言ふいい按配のやうな気がする 柳宣宏
天(かみ)牛(きり)が無花果の幹を喰ひあらしし夏の終りのわが抗ガン剤 三浦槙子
「ふる里の訛」を今は聴く人なし上野駅頭を太股闊歩す 横山三樹
<まひる野集>
口中に銀の箔などつめらるるつめたき雨の後を夢みる 加藤孝男
黄色の太った南瓜がでんと座り九月を統べてゆくカレンダー 島田裕子
名付くるは女(おみな)なるべし猿滑(さるすべり)そのすべらかな肌をそねみて 広坂早苗
「新宿の特養千人待ち」の記事目玉のうらにしこりができた 市川正子
饒舌のさびしさ知るはひとのみか枝先燃ゆる紅さるすべり 竹谷ひろこ
蚊遣火が護りくれたる夜のほどろ煙絶えしを蚊に知らさるる 寺田陽子
川の面に光ためいる静けさをすこし壊して風わたりゆく 滝田倫子
まだ青き七(なな)竈(かまど)の実を見て立てりさびしき調停なし来し街に 小野昌子
わが妻に父は質問繰り返す「どこから来たの」「どこに帰るの」 岡本勝
夏胡瓜の茎はいのぼる蟻の列心あるやにひたすらなりき 斎川陽子
返し得ぬ負債のごとしそののちは藷食ひたしと思ふことなく 升田隆雄
黙祷の時間のありて眼閉づれば三半規管がわたしを転(ま)はす 麻生由美
眠ることを渇望しつつ寝返りを打てば転がる肢体のわれが 高橋啓介
大き荷とロングスカート禁じられエカテリーナの宮殿に入る 松浦美智子
地震あり特急電車の遅延あり書道展に来てあまた見残す 齊藤貴美子
息子より若き父もつアルバイター一日勤めたるのち現れず 中道善幸
この道は一年ぶりか白熊のやうな犬まだ繋がれてをり 柴田仁美
ブロックの塀に凭れてゐる少年ブロックは今父のごとしも 久我久美子
樫の木に行列を為す蟻どもは仰向く蝉に頓着の無し 小栗三江子
菜園の豆の葉にいる尺取虫棒につつけばしゃくとり怒る 岡部克彦
深まりてゆく秋なれば病葉(わくらば)は怒りに燃えて土となるらん 吾孫子隆