<十二月集>


痛みから解き放たれし亡き友は小顔になりて微笑んでをり   須藤武紀


双子来てこの頃やつと理解する外にゐるのはいつも弟   横山利子


義憤では生きてゆけぬと思ふ日の氷結レモンSTRONG缶   田口綾子


鉄として温度を伝えるパイプ椅子アトランティスより深く冷たい   伊藤博美


「泣いていい」とさする手のひら年輪のように信頼していく心   立花開



<作品Ⅲ>


「幸福がとんでくる」との花言葉いただきし胡蝶蘭リビングに置く   手束智子


老眼に乱視加わりこの頃は姿かたちで人を見分ける   岡田千代子


「百歳はいいことあるかと思ったが何【なんに】もないよ」と白寿の父は   栗本るみ


風に揺れ耐えておりと思いしがカマキリは蜘蛛を捕え口ぬぐう  中島まゆみ


常ならぬ残暑きびしき日々なれど米研ぐ指先きに秋の気配す   小原守美子


点滴のチューブの長さは繋ぎ来し犬の紐より長いと思う   菊池理恵子


知らぬ間に手から放したきみを見て見限られてしまったと知る   小林樹沙


化粧するパンを食みゐるメールする車中はそれぞれ女の小部屋   酒井蔦子


髭生やし何処か父性の臭いたるそういやあ教授は怒ったっけなあ   稲熊昌広


嫁ぐ子が置いてゆきたるチョコレートひとり食べたり静かなる昼   牧野君子


暑さとは人を寡黙にするものかこの二、三日妻とくちきかず   樽本益治